第53話 幼馴染み計画
第53話 明日見る夕陽は今日と同じ色なのかな
◆◆◆
臼井美歌と福山志津架に招かれた海辺のコテージ。
四人で食卓を囲み、遅めの夕食が始まるが、そこでは明日の予定について話があった。
ついに、明日はトーランスに行く。
そこで見つけるのだ。和伊南知英と、岡賀ゆかりを。
「ワイ先輩は既に岡賀ゆかりの場所を突きとめている。だから止めに行くはずなのです。彼女がタイムマシンを使い、歴史を改変することを」
「ははっ、本当にあるんですか美歌さん。タイムマシンなんて」
「ええ。でなければワイ先輩達がアメリカに向かおうとはしないはずです。貴方達と同じ便だったのは偶然ですが」
夢現だった話が現実味を帯びつつ、食事が終わったところで、天六は一目散に寝室に行き、宗吾を待たずに再び部屋でバタンキューだった。
本当にお腹が空いていただけで、まだ体力は完全に復活してはいない。自分だって眠さも怠さも抜けきっていないのだから、彼女はよっぽど疲れていたということが分かる。
「宗吾くん、少しお話し良いですか?」
だから自身もさっさとシャワーを浴び、再び寝室に向かおうとしたところで、志津架がこそこそと話しかけてきた。
「あの、明日のことについてですが、学園都市内にある学校の一つ、カリフォルニア州立女子理科大学。ゆかりちゃんはそこに居るはずです。そして先程話した通り、和伊南先輩もそこに向かうはずなんです。彼女の計画を止めるために」
「計画? 歴史を変えることですか?」
「はい。ゆかりちゃんは、過去に戻って何かを変えようとしています。その為にタイムマシンを造ったのです。その目的は私達同級生のみぞ知ることです」
「一体どんな目的です?」
先程の食事の時、歴史を何を変えるかという話題までは行かなかったので、宗吾は気になって質問した。
そうして志津架が語るのは、恐ろしくも効率的で、理論的な、岡賀ゆかりの目論見だ。
「それは自身が、もう一人の知英先輩の幼馴染になるということ」
「え?」
幼馴染。
それは母、大和田愛海だけの特権だ。
知英が愛海を愛し、愛海が知英に執着したのは、ただ単純に彼が魅力的だったからではない。時間が作り出した、固く強い絆があったからだ。
幼い頃から苦楽を共にしてきた、起きた時と寝る時以外は常に、と言っていいほど一緒だった。
いつも隣に居るのが当たり前。そんな存在に、好意を抱かないほうが難しい。と、聞いた。
だから、何人たりとも置かせぬ神域。愛海と知英の関係より深くなることなんて、少なくとも高校から先輩後輩達には不可能だったのだ。
でも、幼馴染がもう一人、別に居たら?
幼馴染に対抗できるのは、好きが時を超えるくらい、余程大きな愛を与えてくれる人物か、若しくは同じくらい永く時を共にしている人物だけ。
要するに、岡賀ゆかりはタイムマシンを使って、その後者になろうとしているのだ。
「……確定ではありません。ですが、そう思うのです。
何故なら高校の時、彼女がそう口から言いこぼすのを聞いたからです」
「ははっ。それは、噂に聞くゆかりさんなら、やりかねなさそうですね。母からたまに聞いていましたが、天六みたいな意地っ張りな感じ、伝わってきましたもん」
「そうですね。天六ちゃんは本当にゆかりちゃん似です。パッと見る限り、髪の色素が薄いのだけは、和伊南先輩に似ているとは思いますけれどね」
しかし、そんな噂の人物との邂逅も、ようやく明日実現するやもしれないのだ。
つまりそれは宗吾だけではない。ついに、天六も出逢うのだ。産みの母である、岡賀ゆかりと。
「やっと天六は、本当の母親と会えるんですね」
「ええ、きっと。そして貴方も和伊南先輩に会えるはずです」
「それは、うん、今更会ってもという感じですが。伝えなければいけないことが一つだけあるので、会えるなら是非」
「何を伝えるんです?」
「それは勿論、母が亡くなったことです」
「嘘……大和田先輩が」
宗吾の母、大和田愛海の死。
それ聞いて青ざめる志津架の顔は、亡くなった四言について触れた時よりも尚深刻そうだった。
それほどまでに、知英だけではなく愛海も、彼女にとっては大きい存在だったというのだろうか。
恋のライバルである依然に、もっと大切な何かが、二人の間にはあったのかもしれない。
「オレは、その事だけは言わねばならない。父はそれを知る責任がある」
「ですね。ですけれど、私が貴方にお話ししたいことはもう一つあるんです」
志津架は今一度、宗吾の手を握って涙ながらに話す。
それは今回の旅の目的の一つであり、賛同者であるはずの彼女達と、唯一自分らの意見が食い違う、一歩間違えば血で血を洗う論争になりかねない、重要なポイントについてであった。
「私も、同じ意見なんです。美歌ちゃんと」
「同じ意見?」
美歌の意見。
天七が亡くなった時、霊安室で彼女が語っていた、巳洞家の子供達を救う方法を、宗吾は思い出す。
兄弟達の人生がひとつひとつの物語だとすれば、それを根本から変えてしまうような、大掛かりな否定。
苦しいけれど、それこそが自分も、子供達も苦しまないための分かれ道。そう言わんばかりの考えだったはずだ。
「はい、ですからその、もし未来が変えられるなら、あの日の大和田先輩を止めてほしいの!
息子さんなら知っていると思うけど、あれさえなければ、和伊南先輩は、大和田先輩と結婚出来たのだから!」
志津架はそんな具体的なターニングポイントにまで言及してくる。
だが、あの日の母を止める?
母は何をしたのだろうか。
知英のどうしようもない体たらくについては何度も聞いてきたが、愛海が過去に何か良からぬことを行ったという話は、母からは勿論、他の兄弟の母親達からも聞いていない。
よって、一体何の日のことで、何をしたことについて言っているのか、宗吾には分からなかった。
「あれって、何ですか」
「うっ、それは……」
「シーちゃん」
そうして尋ねて、志津架が言いかけた時、顔にパックをした羊巻きタオル姿の美歌が突如として現れ、志津架の肩を掴んだ。
「宗吾くんに伝えるのは酷だよ」
「み、美歌ちゃん」
美歌はふざけた格好にも関わらず、真面目な表情で、大人らしく淡々と言い放つ。
「能く考えなよ。死人に口なしだよ。死人が生前言わなかったこと。それをミカン達が全て知るわけではないのですよ。これ以上宗吾くんに曖昧な説を語るのはやめようよ」
「でも確かにミドーは居たんだよ⁉︎」
「居たよ。それは能く分かってる。ミカンが一番ね」
「ミドー?」
ミドー。
知ってる単語なのに、まるでタブーワードみたいな文脈で語られるそれは一体何だ?
「でもね、ミカン達も、最終的なことについては見ていない。全て愛海先輩と知英先輩から聞いただけじゃん。憶測で宗吾くんを傷つけるのは、ミカン許さないからね」
「大和田先輩が殺ったとは思ってないよ私も!
でも間違いなく、今の先輩達を引き裂いたのはミドーの所為だから! だから!」
「ちょ、待ってください! ミドーって、何ですか? ウチの家系が何か問題でも?」
そう。巳洞巳洞と呼ばれても、話の流れで確実に自分のことではないし、他の家族のことでもないことは分かる。
でもそんな聞き慣れた名前の、知らない人物について、穏やかではない話題が飛び交うから、宗吾は思わずツッコまざるを得なかった。
「いいえ。キミ達の家のことではないですよ。
先輩達が大学生の時に起きた、連続女子学生誘拐殺人事件。その犯人が巷で呼ばれていた名前が、ミドー、なんですよ」
「ぐ、偶然だなぁ。そうだとしても、その、ミドー、とかいう奴は、母さん達に関係あるんですか⁉︎」
「ええ。そのですね、ミドーは」
そうして宗吾は、志津架から聞くことになるのだ。二十二年前、宗吾の母、愛海を誘拐した連続殺人犯ミドーについてを。
「ミドーは、令和初頭に現れた、最低最悪の殺人鬼。新宿や渋谷辺りを拠点にし、若い女性を次々と誘拐し、犯し、或いは命さえも奪った男です。
その被害者の中に、和伊南先輩が木更津に家出した際の、関係者も何人か巻き込まれていたのだった。そして最終的には、愛海さえも攫われることになった。
「それで母さんはどうなったんです⁉︎」
「えっと、それは」
「だから言っちゃあダメだって!」
「いやいや、気になるじゃあないですか⁉︎ そこで止めないでくださいよ!
オレ達が産まれているってことは、そこで父も母も殺されずにすんだ。つまり何だかんだ解決されたんでしょう?」
「それはそうなんだけれど……」
その時、話を遮るが如く丁度美歌のところに電話が来た。
それは+81から始まる、日本からの国際電話。警部の剣城真佑だった。
「真佑さん。こんばんは」
『そちらは夜でありますよね。こちらはまだ明け方であります』
「真佑さんって、あの警察の?」
『その声は巳洞宗吾くん⁉︎ 無事着いたようで何よりでありますな!』
皆の無事を確認したかった。真佑はそれだけのために(日本時間で)朝早くから連絡してきてくれたのだという。
『警察はもう何も手を出せないであります。よって私も手助けは出来ないから、もうキミ達に全てを託すのでありますよ』
「その、空港ではありがとうございました。少しだけですが、お姿が見えたので」
『ああ、そんなそんな。いいのでありますよ。キミのお母様、クリスさんから連絡を頂いて駆けつけた次第でありますから、寄与できて光栄であります』
そうすると真佑は、吹っ切れた明るい様子で、一連の事件について、嬉しかったことも辛かったことも全てを語るのだった。
『キミ達を送り届けたことが、私の一番の功績と言っても過言ではないのであります。巳洞家のこと、グレーシュートのこと、ゴールドゴールのこと、只管に調べ生きた警察人生でした。
でも、何も解らなかった。唯一検挙できたのは和伊南先輩の同級生只一人のみ。それも巨悪を滅ぼす事には繋がらない。己の無力を嘆きました。だから、警察の私がもうこれ以上調べられない事は、キミ達にやってもらうしかないのであります。悔しいですが!』
何故か悔しいと語るその声はやはり嬉々としている。
何かを隠しているというわけでもない。無力感故に朗らかなのだ。
自分の出来ることは全てやった。後は文字通り法外の話になってしまう。
託せるのは同じく、そのことだけに人生を賭ける覚悟のあるものだけだ。
「はい。どうにかして、和伊南を見つけます。会えればもうグレーシュート社に関与する気はありませんが、何かこの状況を変えられるヒントがあるかも知れない」
『そうでありますな。私に手伝えることはもう無いかと思われますが、私はいつでもキミ達の味方であり、良き国民の味方であります。何かあればいつでもおっしゃってくださいね』
「良き国民の味方、か。誇らしいですね。その台詞」
「ですね〜。その台詞が言える警察という仕事も、中々捨てたもんじゃあないのでは?」
宗吾の感心に併せて、美歌がそう言った時、宗吾は真佑が警察であり、この一連の事件を追っていたということに加え、父とも繋がりのある人物だということを改めて認識した。
だから今ここで、尋ねるしかなかった。
「真佑さん。その、真佑さんはミドーという人物をご存知ですか?」
「「あっ!」」
しまった、という顔で志津架と美歌は同時に叫び、電話を切ってしまった。
特段タイムマシンのことを話したわけでもないのに、そんなにもミドーのことを聞かれたら困るのだろうか。
訝しげに大人達を見つめる宗吾に対し、苦笑いで二人は宥め返す。
「宗吾くん〜。ほら、あれ、何だっけ? 捜査中のことは話せない場合もあるから、そういうのは聞いちゃあダメだよ〜!」
「ですです!」
「……大人って、そういうの隠したがりだ」
「そういう時ばかり蔑むような子供の目をしないでください!」
そうしている間に宗吾は自分で空間メニューを開き、通話アプリを開く。
電話掛ける先は、当然剣城真佑だ。
『もしもし! やはり海外だと電波が悪いですかね?』
「いえ、電波が悪いところなんて空の上以外聞いたことがありません。ところで、先程の話の続きですが」
宗吾は美歌達の顔を伺いつつ、真佑にミドーについて訊いた。
美歌はソファに寝っ転がって下唇を噛んでいるが、志津架は半ば諦めた表情で、美歌の横に座り、彼女の気を落ち着かせるかの如く撫でていた。
…………To be continued.
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