第38話分身の術
城の書庫にて、歴代の天帝に関する情報を調べていると、ある興味深い技についての記述がのっていた。かつて誰一人として扱いきれなかった技、『インクリース』自身と全く同じ肉体を複製する技、分身と言い換えてもいい。僕はそのインクリースと言う技に興味を持ち、休日を利用して練習することにした
自室にて本に載ってあった通りの手順と呪文を唱えてみたのだが、思いもよらず一発で成功してしまった。僕の目の前には確かに僕と全く同じ顔、同じ体系の複製体が現れた
歴代の天帝たちの誰一人として、使いこなせなかったと書いてあったから、どれほど難易度の高い技なのかと思ったら、拍子抜けもいいところだ。
分身体を見て色々と考えを巡らせる。この技を使えば様々なことが出来るようになる、僕は浮かれていた。しかし一つ問題が発生した、分身体の動かし方が分からない。さっきから分身体は倒れこんでおり、動く気配がないのだ
「まあそう簡単にはいかないか」
むしろ納得した、歴代の天帝たちもきっと、分身体を作り出すことまでは出来たのだろう。しかし誰も動かすことは出来なかった、ゆえに誰一人として扱いきれなかった技と記されていたのだろう
動かせない分身体など、何の役にも立たない、だけど僕はまだこの技を諦めきれないでいた。かつて誰も動かすことのできなかったもの、そんな、できる可能性の低いものに時間を使うなんて合理的じゃないけど、もしもこの技を使いこなすことが出来れば、呪印から解放されるかもしれない。なぜなら、僕が作り出したこの分身体には一つだけ、オリジナルの僕と違うところがある。僕の背中にはある枷の印が分身体にはないのだ
どうして、この分身体は動かないのだろう。僕は分身体を調べつくした、心臓は動いてるし脈もある、ただ意識はない。意識、思考、感情、それらを作り出すことが出来れば、こいつを動かすこともできるかもしれないが、どうやってもそれらは作り出すことが出来なかった
「と言うわけで、君の知恵を借りたい」
僕はシーアに会いに来た、こういう特殊な力については彼女が一番詳しい
「インクリースね、それなら私も本で読んだことがある。あなたの言う通り、分身を作ることまでは、過去の天帝たちも出来た、だけど誰も心を作り出すことは出来なかったのよ。目に見えない概念的なものは作れない、残念だけどその技はそもそも、欠陥技術と言わざるを得ないわ」
やっぱり不可能なのだろうか、この技は決して扱うことのできないものなのだろうか
「無理なものは無理よ、歴代の天帝が誰一人としてできなかったことを、あなたが出来るはずないじゃない、あなただって過去の天帝と条件は同じだもの」
「・・・違う、作れないなら、元からあるものを使えばいい」
「え?」
どうして気づかなかったんだ、僕は心を、僕以外の心を五つも持ってる。歴代の天帝にはない、僕だけが持つもの
【魂の回廊】
「なるほど、つまり、俺たちがその分身体に宿ることが出来れば、動かせる可能性はあるわけだ、でもどうやって宿ればいいんだ?」
「分身体を作り出すのと同時に、肉体に宿ろうとすれば、できたりしませんかね」
「まあ、試す価値はあるかもな、で、だらがやる。前例のないことなら当然、リスクはある。仮に分身体に宿れたとしても、戻ってこれないかもしれない」
「俺やりたい」
食い気味に発言したのは宮下さんだった。他にやりたがる人もいなかったので、彼にやってもらうことにした
さっきと同じように分身体の作成をする、同時並行で宮下さんは僕と入れ替わろうと、肉体の主導権を得ようとする。いつもなら僕が引っ込むことで入れ替わるのだが、僕も肉体に残ろうとする。行き場を失った、宮下さんの魂は、今僕の手で作り出されている分身体に、半ば押し出されるような形で宿った
「おお、すげえ、本当に分身してる」
目の前の分身体が動き出した。どうやら成功したみたいだ、宮下さんの魂はしっかりと分身体に宿ったみたいだ
「問題は戻れるかですね」
分身体は本体が触れることで、取り込むことが出来る。僕は宮下さんが宿った分身体に触れ僕の中に戻した。すると宮下さんの魂も僕の中に戻ってきた
「良かった、戻ってこれた」
これなら今後も使えそうだぞ、早速もう一度、分身体を作り、今度はりほ姉さんの魂を宿らせようとした時だった。また新たな魂が僕の中に宿り、そしてその魂が今まさに作った分身体の中に、入っていったのだ
「ここは天国か?いや地獄かな」
目の前にいる、僕と全く同じ顔、同じ体のその人はそうつぶやいた
「あなたは、誰ですか?」
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