18.エレナス邸(3)[このモブ敵は強い!!!]


 ――俺に気づいた『外套騎士』が、叩きつける動作をやめて片膝立ちでこちらを見据える。


 その瞬間、俺はヤツへ一気に近づきながら、『外套騎士』の『表示』を開示して情報を盗み視た。


――――ポロンッ



[【名前】灰風の執行者


【種族】人間 (深淵)・亡者


【レベル】


【状態異常】深淵/欠損


【属性】深淵・深風・物理・奇術・呪術・出血・呪い


 ――――

 ――

【人間性(特性)】 2/10


【奇術】

・〈???〉


【呪術】

・〈償いの鈍香〉:範囲内の対象に『香の呪い』をかける。体が弱り、動きが緩慢になる


【戦技】

・〈闇の抱擁〉:闇を纏い、姿を眩ませる戦技。接触や強い衝撃で効力を失う

・〈???〉]



(『下の項目ワザ』が多いし、『剣・盾さっきの』に比べてレベルが急に上がってる。体型も長細くてデカい……俺の二倍近くあるな……)

(でも、やることは変わんねぇ――サクを助けて、『外套騎士コイツ』の頭かち割るっ!)


 右の逆手に握った、予想以上にデカかい『赦鋼大剣』は切っ先を地面に引きずり、一方の『黒煤大剣』は手放し、浮かせて追従させる。

 それから、さっき『剣騎士』に投げた『煤玉』を左手に呼び戻し、三本のナイフに形成――サクを掴む右腕めがけて全力でぶん投げる。



[【暁天ニ呵ウ鬼】を発動]

 ⇒〈投擲術・破砕〉を発動。投擲物に[激突性][貫通]付与



 不慣れな手つきで投げたナイフは、『技能』の補正が乗っかり、高速かつ精確に『右腕狙い』へと飛んでいく。



――――ッ、カシャンッ!



 投擲の動作から瞬時に飛来するナイフ。『外套騎士』はサクを手放すと、俊敏な動きで右腕を内へ引き、体ごとひねって後ろへと跳び退いた。……ナイフは標的を失い廊下の奥へと飛んでいく。


(放したっ。あとはヤツを遠ざけながらサクに『薬』をかける!)


 構図はサクを挟んで自分と『騎士』が向き合う形。俺はポケットから、カラミディアに渡された『神薬の霊管くすり』を取り出そうとした――その時。



――――カッシャ――、ヒュッンッッッッ!!!



 ヤツの両手にが『現れ』、手元を『光らせる』と素早く振り抜いてきた。


(――『戦技』っ! でも二本なら余裕で――)


 ――投擲。瞬間、振り抜かれた二本とナイフが――『黒い弾幕』となって視界を埋め尽くす。



[リンッ――詳細判明、【戦技】〈黒い散弾〉を開示します]


[〈黒い散弾〉:一振りの短剣を前方位に散弾して飛ばす広範囲の投擲。両手で投擲すると威力と密度が増す]



「――は? キレそう」(――――ッ)


 

――――――ッシュッ、ギィッギィッギィ……ーー!



『黒い弾幕』が甲高い音を立てながら通り過ぎる。けれど――範囲内にいた俺と、前で横たわるサクには、その凶刃が一本も届くことはなかった。


 弾幕が視界を埋めた刹那、俺は反射的に追従する『黒煤大剣』を前方に押し投げ、『ドーム状』に変化させた煤でサクを包み込んでいた。

 同時に、自分の左腕――『義腕』に形成した煤を裾ごと前へ展開。即席の『壁』を創り弾幕を防いだのだ。


(――っぶね~。……無意識に動いてなきゃ、俺もサクも晒した肌局地的にサボテンになってたぞ……)

(……それに、さっき『死んでも助ける』って言った手前、助けなきゃ恰好つかんし……ダサいっ!)


 複数の被弾音は断続せずに一瞬で止んだ。『戦技初見』の威圧感には驚いたが、一層しかない弾幕なら少なくとも自分は過剰に守らなくても大丈夫だと、考えを改める。……最悪、顔を守れば特攻できると。

 音が止むと同時に、俺は即座に自分の守りだけを解いて――


「――っ? ……あれ、どこ行った??」


 奥にいたはずの『外套騎士』が、壁を解くと跡形もなく消えていた。そして――



――――ガシッ!!



「――う゛ぅ゛……っ!?」


 背後から『見えない手』に口を掴まれ、そのまま吊り上げられる。


(あっ! 『闇の抱擁姿消すやつ』かっ! 壁で視界遮ってたから見逃したッ!)

(――ってか、『気配』とか『正確に把握』するんじゃないのかよ! ちゃんと機能しろよ技能おいっ!)



[〈羅針眼〉:任意発動。不可視中でも周囲の『状況』『位置』を『正確に把握』することができる]

※本人が意識的に『把握しようとする意思』を持たなければ無意味


[〈隠密幽鬼〉:任意発動。広範囲の『気配』を『精確に把握』し、自身の『気配』と『物音』を限りなく断つことができる]

※本人が(以下同文)



――――ッグッリュゥー!!



 背中――左の肩甲骨に鋭くて鈍い衝撃が突き刺さった。『切れない服』越しにもわかる、肉をかき分ける異物の存在。


「う゛っ゛……!!」(イ゛デェ!)



[リンッ――〈隠襲抵抗〉を得ました]

[リンッ――〈隠襲抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈隠襲抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈隠襲抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈挫傷抵抗〉を得ました]

[リンッ――〈挫傷抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈挫傷抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈肉離抵抗〉を得ました]

[リンッ――〈肉離抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈肉離抵抗〉が強くなりました]

 ――――

 ――



 自重も相まって深くまで沈みこむ不快な圧迫感と痛みが、神経に焼きつく。でも……それだけだ。


(……『腹開封』や『踊り食い』に比べれば、マシなんだ――っよ!)


 苦痛を押し殺しながら、俺は背中に沈む異物と、それを握る手ごとを『シャツの黒煤』で絡め取った。

 さらに、右手の『赦鋼大剣』を力任せに上へ放り投げ、真上に配置した『壁だった煤玉』に取らせる。そして――指向性を持たせて真下へと『爆ぜさせた』。



――――バンッ――ッジャギィー!!



 炸裂の勢いを利用して、急速落下させた大剣が『外套騎士』の左肩――『深淵』と繋がっているであろう『生身の部分』を、『位置を把握』して狙い撃つ。重厚な鎧ごとその肩を潰し、血飛沫をまき散らしながら腕を断ち切った。


「――っぷぁ~ッ!」


 口の拘束が弱まり、それどころか腕の鎧そのものがように『ガシャン』と落ちる。吊るされていた俺は、左腕を絡めた『シャツ黒煤』を切り離し、『その場に固定した状態』で着地した。



――――カッシャ、ガシャガシャッ!



 背後で腕を固定された『外套騎士』が暴れている。俺はそれを無視してサクの元に走った。しかし――



――――ガッ、ズァッ! ――ダンッ!! ッジャジャジャジャリジャリャッッッ……!!



[リンッ――詳細判明、【奇術】〈黒風の導き〉を開示します]


[〈黒風の導き〉:足を踏み抜き、己の周囲に黒い風を巻き起こす。一時的に『深風』を纏い、移動速度を上昇させる]



 背後から響く異音――その発生源が、すごい勢いで近づいて来る。



――――カッシャッ――ザンッ、グザャザャザャザャザャザャザャ――!!!



「あでぇ゛っ――でぇでででででッッ~~!!?」



[リンッ――状態異常[出血]を検出]

[リンッ――状態異常[深淵]を検出]

[リンッ――〈旋撃抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈旋刃抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈削取抵抗〉を得ました]

 ――――

 ――

[――〈深風抵抗〉が強くなりました]

 ――――

 ――



 背後からの追い抜きざま、右腕の肘を速度の乗った刃で切断される。しかもその後、、断続した斬撃が傷口付近をゴリゴリと削っていった。



――――ジャリジャジャジャッジャッッ!!



 追い抜いた『外套騎士』が、俺とサクの間に地面を削りながら停止する。

 

 その姿は――全身に『黒い風』のようなモノを纏い、露出した左肩の断面からは『深淵のモヤ』が腕を模して伸びていた。手の形をしたモヤが、外側にカーブした黒い短剣を握っている。

 さらに反対、拘束していた右腕は肘から先が切断されており、代わりに『深淵の手』がそこからも生えている。


(あの『黒い風』……さっき槍で狙い撃ちされた時も感じたけど、なんか『物理的に干渉』してないか?)

(いま、腕削ってったのもあれだろ! セコイ技使いやがってっ!!)


 動きを止めた俺は、切り削られた腕をすぐさま『黒煤』に変えて、背後に置いてきた『赦鋼大剣』を取りに行かせる。

 同時に、右肘の先から腕の再生が始まり、『一部』を除いたすべての黒煤を左腕として圧縮、元に戻す。


「――すぅ~~、はぁ~~……」


 とりあえず、呼吸を整える――そこでふと、俺はサクに言われた『講義アドバイス』の内容を思い出した――。



『レン。ちょっと耳貸せ。……お前の動きはだいたい力みがちだ。だからまず、脱力してリラックスした状態をつくれ。そんで、力むのは攻撃する、またはされる瞬間、それから動き出す時くらいにしろ。……今あれこれ言っても混乱させるから、これくらいは頭の片隅にでも置いとけ――』



 ――正直、今でも内容の意味をちゃんとは理解できていな。でも――今それを活かしてみようと思う。……サク曰、『実戦で得る経験すごい』らしい。……語呂が悪いなぁ。


(……リラックス。力を抜いて、動くときに……『力む』?)


 僅かな睨み合い。先に動いたのは――俺だ。

 深呼吸と共に体から力を抜く。前に出した右膝が『かくっ』と沈み、上体がわずかに前へ傾く――瞬間。


(――こういうことか?)



――――ッッダッン――!!!



 右足に力を込めて一気に踏み込む。石床が砕け散り、視界がブレる。


(――はぇっ!?)


 一足で『外套騎士』との間合いが潰れた。俺はすぐさま思考を切り替えると、背後から黒煤で飛ばした『赦鋼大剣』を『位置把握』で掴み取る。そして、自重を感じる前に連動した動きで前に振り下ろした。……狙うは、脳天っ!


「――っらぁ!!」(タイミング完璧!!)


 自画自賛も許されるであろう一撃。『外套騎士』は短剣を構えたまま、反応できていない――かと思いきや、体を微かに傾けた。



――――ジャリ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛ッッッ!!!



 左腕の肘を前に突き出すように構え、腕に纏った『黒風』を大剣の側面に当ててくる。すると――大剣が『黒風の刃層』に弾かれ、甲高い摩擦音と共に軌道を逸れていった。


(カッコよくいなされたっ!?)


 さらに、逸れた先には『湾曲した短剣』が待ち構えており、大剣を持つ右手首を容赦なく切り飛ばされてしまう。


「――~~~ッッッ!!」



[――〈痛覚抵抗〉が強くなりました]

 ――――

 ――



『抵抗』の通知がうるさく響く中、俺は歯を食いしばって痛みに耐えた。……手首を犠牲にする『覚悟』を最初から決めていたからだ。


(これでいい!!)


 ――俺の頭は今、かつてないほどに『知恵』を絞っていた。いかにして――『外套騎士コイツ』を『騙し』、ぶっ飛ばすかを。



『――それと、喧嘩慣れしてないお前がいくら武器を振ったって当たらん。どうせ読まれてカウンター喰らうのがオチだ。……だから――。バカになって、相手が絶対にやらないと思う選択ズルをしろ。……お前が『弱い』ってことを利用して――返り討ちにしてやれ』



(――手首飛んだ。重心かかってんのは踏み込んだ右足。『赦鋼大剣』が地面にぶつかって爆ぜた。視界不良――不意打ちにもってこいっ!)


 思考を絶やさない。素人なりに選択肢を、『バカな手』を考える。そして――動き出す


「――すぅ~~……――――ッッ!!」


 ――まずは、切り飛ばされた手首を黒煤に変化させ、更に『小さなドリル』へと形成。兜の隙間目がけて巻き飛ばす。


 ――――ッ、カシャッ!


『外套騎士』が上体を起こし、少し大袈裟に頭を反らせて回避する。意識が一瞬でも逸れたこのタイミングで、第二撃――膝下全体を『黒煤の刃』に変え、バランス感覚を無視してヤツの右脚を刈り取りにいく。


(意識しろ。曲がらず、突き抜ける想像を――)



――――ッザァジッジジジ――ザンッ!!!



 鋭く甲高い摩擦音――けれどそれは、一瞬。

 本来なら弾かれたであろう『黒風の刃層』を、俺の『黒煤の刃』は無視して突き破り――『外套騎士』の両足をまとめて切り飛ばした。



[※【黒煤ノ薪子】:~~『。身体から離れた部位は、意識すれば一瞬で『煤化』する。自然治癒能力が大幅向上。 対価:自身を焼き、煤を生成]



――――ガシャンッッ(グラッ)!!



「――――」


 足を切り飛ばされた慣性で『外套騎士』の体が左に傾く。そこへすかさず、左に握った『赦鋼大剣』をヤツの首めがけて思いっきり振るう。



――――ゴォォォォーー!!

――――ッビュンッ!



 大剣が首に直撃――する寸前、『外套騎士』が後ろへと高速で跳び退いた。


(ちっ、逃がしたっ!! もう『脚』つくったのかよ!)


 逃げられた――そう認識した瞬間、俺は大剣を無理やり止め、こちらの『脚』を戻しながら追撃する。



――――ヒタッ(着地)



深淵』を生やした『外套騎士』がしゃがんだ姿勢で静かに着地する。さらにそのタイミングで、ヤツの纏っていた『黒風』がふっと消えた。


(『風』の効果が切れたっ。かけ直される前に攻める!)


 俺は駆け寄りながら、右手に形成した三本のナイフをヤツに――



――――ッビュン――ッッ!!



(――――ッ)


 ――投げる瞬間、俺は『直感』のようなモノを感じ、無意識に首筋を庇っていた。



――――ジャギンッッ!!



「――――ッ!?」



[リンッ――〈速撃抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈瞬撃抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈速襲抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈重圧抵抗〉を得ました]

 ――――

 ――



 ぶつかる凶刃。小さい体が、勢いそのままに押し戻される。だが、それを黙って受け入れてたまるかと、『黒煤左足』からスパイクを打ち込み踏ん張る。


「ぐぅ……!」(重い。デカい。力強いぃ……!)


 すさまじ衝撃が右腕――ナイフから『篭手』に変えた腕に響く。つばぜり合いのような体勢で、倍以上の体格を持つ『外套騎士』がのしかかるように圧力をかけてくる。


「うっ……――らぁ!」


 力と力の拮抗。俺は重心をズラし、左手の『赦鋼大剣』をヤツの横っ腹に再度振るう。



――――ッビュン――ッッ!!



 ――が、またしても避けられた。


(ほっ、ほんっとに当たらねぇ~。……これ俺のせいか? 正攻法の俺ってそんなにダメダメか?? コイツの回避率が高いんじゃなくて???)


 高速で跳び退く『外套騎士』。その『深淵』を見て、俺はようやく異変に気づく。


(あれ……『逆関節』? アイツの脚、動物みたいになってねぇ? しかも、筋肉で動いてるわけじゃないから反応が早いし、ズルッ)



――――カッシャ――、ヒュッンッッッッ!!!



 跳躍の最中、ヤツの左手に現れた『黒いナイフ』が振り抜かれ、『黒い弾幕』となってばら撒かれる。


(――ッ! この『弾幕』は――突っ切れるっ!!)


 俺はその『牽制』を好機と見て、弾幕に向かって臆さず突っ込んだ。

 護り、視界を確保するように左腕の『煤』で『仮面』を形成。右の『篭手』は、肘下全体を覆う『ガントレット』へと再構築する。



――――ッギャギャギャギャーー……ッッ!!



 両手から放たれた最初よりも幾分か薄い『弾幕』を強行突破し、俺はまだ距離のある『外套騎士』に向けて――


「――浪・漫・砲ロケット・パ~~ンチッッ!」


 振り抜いた腕――『黒煤ガントレット』が『投擲術・破砕ロマン』を乗せてはじき出される。着地寸前だったヤツの首を『ッグギィ』と折り掴み、宙吊りにした。……きっ、気持ちいぃ!


(今のうちにサクを――っ!)


 足掻く『外套騎士』の脇を通り抜け、『黒煤』に護られたサクへ駆け寄ろうとした――俺の背後から、『違和感程度の気配』を感じる。……もはや『勘』と言ってもいい。


「――そう何度も不意打ちされるかってのォ!」(……これで何もなかったら恥だな!)


 反射的に振り向きながら、左手の『赦鋼大剣』を横薙ぎに振るう。



――――ッブァン――ッギュルン!!



「――ゲェっ!?」


 結果的に、『勘』は当たっていたようだった。しかし、斬ったはずのモノ――『深淵のモヤ』は、文字通り『靄』のように刃をすり抜け、なのに俺の首へと『物理的』に絡みついてきた。


(俺ずっと首掴まれて呻いてるなぁ! 首専門の呪いにでもかかってるのかっ?)


『抵抗』の影響か、前に比べて締め付けの苦しさはないが、『またまたまた』しても足止めを喰らう始末。……ダサすぎる俺っ!!


(――いや待て、逆に考えるんだ! 『掴まれてたっていいや』と考えるんだ俺ェ!! ……どっかの貴族も言ってたはず――知らんけどっ!!)


 ――そう自分に言い聞かせると、ふと『サクを復活させる』一手が閃く。……やっぱ偉人の言葉は正しかったんだ!


 俺は首を拘束されたまま、ポケットから『神薬の霊管くすり』を取り出すと、後ろのサクへと投げた。それを『黒煤』で取らせて使おうとした――が。



――――ッヒュンツツツ――カンッ!!



「ああ~~!! カァ~ンッッ!!」


 投げた『神薬の霊管』は、『外套騎士』の繰り出した『弾幕』によって撃ち落され、廊下の奥へと弾かれていった。……幸いなのは、特殊な『管瓶入れ物』のおかげで割れなかったことくらいか……。


(――あれ? ヤバくね? もう『神薬の霊管くすりやばくねっ!?)

(あぁ~~! さっき『盾で殴られた時』、痛すぎるからって『ヘルメット』の中で飲まなきゃよかった~! 自力で治るのガマンすればよかったぁぁぁ!!)


 後悔、後に立たず。俺は手持ちの『薬』が無くなったことで軽くパニくってしまう。……そのせいで、『黒煤』で取りに行かせる、という単純な答えを失念していた。


 その間にも、ヤツの方から――生々しい『肉の音』が聞こえてくる。



――――ゾリジョリジョリ、ジョリ……――



 見ると『外套騎士』が、『黒煤』に掴まれた首回りを、あの『湾曲した短剣』で削ぎ落としていたのだ。


(――お前が俺以上に予想外の動きするなよッ!?)


『俺も真似て首飛ばすか?』、なんてやりかねない思考がよぎった、瞬間――俺に頭脳に『天啓』降りる!


「――あっそうだっ! まだ手があった~~ッ!!」


 思いついたら即実行。俺は自分の右腕を――た。……『自傷・自壊』等の『抵抗』がどんどん強くなっていく。


「イタイッタイッタイッタイッタイッタイッタイッッ――」


 感情の追いついていない『イタイ』を連呼しながら、落ちた腕の断面に『黒煤』をくっ付けて、サクまで伸ばす。



――――ジョリッ、シャッ――カッシャ



 その時、首の大半を削ぎ落とした『外套騎士』が、『深淵モヤ』で穴を補い着地した。


「――お前はまだ待ってろっ」


 俺はすぐに『ガントレット黒煤』を操り、再びヤツを捕らえようとする。……が、どうやら『黒煤』にも『相性』があるようだった。



――――ビッュンツツツ――!!



 純粋な『速度』で振り切られる煤の腕。今日一番のトップスピードを出し、ヤツが俺の首めがけて『短剣』を振るう。……『黒煤』を意識すれば防御に間に合うかもしれない。

 ――ちょうどその時、俺の伸ばした腕が『黒煤ドーム』に突っ込み中のサクに触れた。


「――――」


 刹那の逡巡。『斬首』と『サクの回復』という選択に迫まれ――


(――っあ、無意識に――)



[【不惜身命】を発動]

 ⇒対象の『状態異常』を『全て』自身に移します


[【名前】サク

【状態異常】月詠/休眠/暗示/瀕死/打撲/呪い/弱体/鈍化/精神疲労/内傷/断裂/出血/骨折/呼吸困難/神経障害/頭痛/喉損傷/裂傷/頸部損傷/脳震盪

  ↓   ↓   ↓

[【状態異常】(空欄)]


[リンッ――〈脱臼抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈障害抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈息難抵抗〉を得ました]

 ――――

[リンッ――〈喉詰抵抗〉を得ました]

 ――――――

 ――――

 ――



 ――俺は『サクの回復』を先に選択してしまった。『一瞬の判断』に慣れていないことが仇となった。……首を守ってからにすれば、俺も助かった――



――――ザァリンッーーッ!!



「――ぅぶぇ――――っ」


 速度を乗せた凶刃が、俺の首を何の抵抗も受けずに切り飛ばす。『状態異常』も相まって、頭の中がおもちゃ箱のようにグチャグチャグチャグチャグチャ――


(――考えるの、ダル、もう、何も分からん、わかろうとしな……なんだ……あれ、しんだか………………?)



――――『パンッ』



 視界と意識が黒く塗りつぶされる最中、最期に聞こえたのは――『手を打ち合わせた』ような音だった…………気がする。



[【死ンデモ命ガアルヨウニ】を発動]

 ⇒即時修復、再生を行い蘇生させます 3/10


[リンッ――状態異常[激痛]を検出]




――――――――――――――――――


◇外套騎士のステータス


(※は非表示、見えていないものとする)

【名前】灰風の執行者、ダノク


【種族】人間 (深淵)・亡者


【レベル】96


【属性】深淵・深風・物理・奇術・呪術・出血・呪い


※↓ステータス、たぶんこんな感じ(気紛れで考えた)

【生命力】23

【持久力】18

【筋力】14

【技量】35

【耐久】12

【魔力】8

【理力】15

【信仰】10

【運】25

【人間性(特性)】2/10



※【右手武器1】≪執行者の曲剣≫

分類:短剣 〈戦技:闇の抱擁〉

効果:技量+3。生命力-3。出血効果。『致命の一撃』、または出血効果時、深淵付与

・外側に湾曲した黒い短剣。執行者の名を継ぐ者が手にする暗部の得物。首筋を裂かれた者は、嘆き間もなく自らの死を悟るという


※【右手武器2】≪深淵の狩刃≫

分類:投剣/深淵 〈戦技:黒い散弾〉

効果:出血効果+深淵付与

・深淵が寄せ集まった投剣。矛盾を孕んだ実体のない刃は、投擲後に手元へ再生成できる


※【左手武器1】≪深淵の左腕≫

分類:義腕/深淵

効果:攻撃時、精神疲労効果

・深き闇の黒影が、欠けた左腕の代わりとなったもの。それは物質ではなく、深淵そのもの。しかし、生者に触れることで質量を帯び、冷たく沈む絶望を染み込ませる

 深淵とは形を持たぬ苦悩であり、影の裏に隠れた感情の澱(よど)み。この腕を携える者は、すなわち精神を喰われた『彷徨える亡者』である


※【左手武器2】≪深淵の狩刃≫


※【頭防具】≪執行者の兜≫

※【胴防具】≪執行者の外套鎧≫

※【腕防具】≪執行者の篭手≫

※【脚防具】≪執行者の足甲≫

※【指輪1】≪暗部の腕輪≫

効果:隠密性上昇


※【指輪2】≪追風の腕輪≫

効果:移動速度上昇



【奇術】

・〈黒風の導き〉:足を踏み抜き、己の周囲に黒い風を巻き起こす。一時的に『深風』を纏い、移動速度を上昇させる


【呪術】

・〈償いの鈍香〉:範囲内の対象に『香の呪い』をかける。体が弱り、動きが緩慢になる


【戦技】

・〈闇の抱擁〉:闇を纏い、姿を眩ませる戦技。接触や強い衝撃で効力を失う


・〈黒い散弾〉:一振りの短剣を前方位に散弾して飛ばす広範囲の投擲。両手で投擲すると威力と密度が増す




―――――――――――――――――

夏バテ。何にもないよ。






























ホントに何にもないよ

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