第36話
ヒナ兄の目は狂気に染まっていた。狂気こそが彼の持つ雰囲気だったのかもしれない。今更だけど、彼はずっと私を見ていたんだ。
「葉月」
「なに、ヒナ兄」
「キスして」
「……?」
何を言っているんだろう。ロウも不思議そうにしている。ヒナ兄がとても優しい顔をしたから。百面相なのだろうか。
「ロウの前で、ロウに見せつけて、ロウの心の痛みとしてお前が残れ。俺がロウの前でお前を抱いてやる」
「……っ、待って、何言ってるの」
頭おかしいんじゃない?
思わず出てきた言葉。飲み込んだ。私が昔から知る人だから、いまだに傷つけるのが申し訳ないという感情がある。
私はいま傷つけられているのに。
ほら、完全に悲劇のヒロインよ。
「てめえいい加減にしろよ」
「動くな」
――パン、乾いた音がした。銃声が鳴り響く。弾が鋭くロウの脚を貫いた。あまりに一瞬の出来事で把握するのに時間がかかったが、ロウの痛みに苦しむ声を聞くと頭の中の何かが壊れるような音がした。
堪えられなくなっていた。
ヒナ兄を憎く、今すぐ殺してしまいたい、そしてとても嫌いだ! と。頭が瞬時に切り替わる。
ロウを傷つけた。
許さない。
軽く握っていたのか銃はすぐに奪い取れた。そしてヒナ兄に突き付ける。ヒナ兄はヘラッと笑った。
「俺を殺すの? 酷いな、葉月」
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