第11話 「逆転のプレゼン術」

1. 重大プレゼン、開始5分前

月曜の朝、美咲は深呼吸をしてスライド資料を見つめていた。


社内コンペ——勝てば、自分の企画が正式に採用される。

資料は完璧。流れも頭に叩き込んだ。


(落ち着いてやれば、大丈夫)


しかし、会議室に入った瞬間、空気が変わった。


部長の隣に座っていたのは——予想外の人物だった。


「えっ……」


そこには新しく就任した専務がいた。


(専務……? 予定にはなかったはず……)


彼は数字と実績を重視する、いわゆる**「結果第一主義」**の人間。


(ヤバい……!)


美咲の企画は「長期的なブランド戦略」が売りだ。

しかし、専務の方針に合わない可能性がある。


(このまま発表しても、響かない……)


一瞬、脳裏に敗北の二文字がよぎる。


——でも、ここで終わるわけにはいかない。


美咲は静かにスライドを閉じ、マーカーを手に取った。


「計画通りに進まない? なら、その場で計画を作ればいいのよ」


彼女は、ホワイトボードに向かった。


2. 予定変更、即興プレゼン

部屋が静まり返る。


美咲は、マーカーで「ある数値」を書いた。


『前年比 120%』


専務がピクリと反応する。


「……それは?」


美咲は微笑む。


「この数字は、私たちが競合他社に勝つために必要な成長率です」


本来のプレゼンでは、長期的なブランディングについて話す予定だった。

しかし、専務が求めるのは「具体的な利益」だ。


(なら、話の順番を変えればいい)


美咲は、スライドを使わず、直接ホワイトボードに図を描きながら説明を始めた。


「現在、市場シェアは◯%。競合との差は△%。しかし、この戦略を導入すれば、短期間で120%の成長が可能です」


専務の目が鋭くなる。


「ほう……続けて」


(悪くない反応)


美咲は内心でほくそ笑んだ。


3. 「相手が知りたい話」をする

プレゼンの鉄則は、「自分が伝えたいこと」を話すのではなく、

「相手が聞きたいこと」を話すこと。


「数字重視の専務には、まず結果を見せる」


最初に120%の成長というインパクトを与えたことで、専務の興味を引けた。


次に、美咲は補足する。


「ただし、これを実現するには、単なる短期施策ではなく、"ブランドの強化"が不可欠です」


最初に結果を示したことで、「ブランド戦略の話」も自然に受け入れられる。


専務は腕を組み、唸るように言った。


「つまり、短期の利益と長期の成長を両立できると?」


美咲は微笑んだ。


「はい。そのバランスこそが、この企画の強みです」


専務がゆっくりと頷く。


「……いいだろう。詳細を詰めてみる価値はあるな」


部長が驚いたように美咲を見る。


「美咲君、予定とは違う内容だったが……よく対応したな」


美咲は涼しげに笑う。


「計画通りに進まない? なら、その場で計画を作ればいいだけです」


4. プレゼンの"本当の勝負"

会議が終わり、オフィスに戻ると、同僚の翔太が驚いた顔で近づいてきた。


「すごかったな……あんな即興プレゼン、普通はできないぞ」


「ふふ、即興じゃないよ。もともと相手に合わせて変えるつもりだったの」


「……どういうこと?」


美咲は微笑む。


「プレゼンって、"発表"じゃなくて"交渉"なのよ」


翔太がポカンとする。


「交渉?」


「うん。"決められたことを伝える場"じゃなくて、"相手を説得する場"」


「だから、相手が何を求めているかを察して、それに合わせて話すのが本当のプレゼンなのよ」


翔太は感心したように頷いた。


「……やっぱり、美咲ってすげぇな」


美咲は小さく笑う。


「ありがとう。でもね、本当にすごいのは"聞く力"なの」


翔太が首を傾げる。


「聞く力?」


「そう。相手の反応を見て、何を求めているかを"聞く"。それができれば、どんな場でも勝てるのよ」


翔太は目を丸くしていた。


(……相手の話を"聞く"ことが、最強の武器になる)


それを知っている美咲は、今日もまた一歩、先を行く。


エンディングメッセージ

✔ プレゼンは「発表」ではなく「交渉」

✔ 相手が何を求めているのかを"聞く"ことで、流れを変えられる

✔ 計画通りに進まなくても、その場で最適な計画を作ればいい

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