レンドル王子の肖像画

アイス・アルジ

第2話 レンドル王子の肖像画(改定版~読みやすい)


 ウィル王国ランドを治める王家に第一嫡子が誕生し、皇王によりマルガレッタ・ウィルゼルと命名されました。この王女は、絶世の美女として、隣国の王子や公爵の殿方の噂となり、それどころか越海の大国においても、その名を知られるほどだった。この地域は乱世の時代であった。ウィル王国ランドは、小国ながら有数な金銀、鉄の良質な産地であり、その財力を持ってして、傭兵を雇うことで王国の防衛を強固なものにしていた。こうして、高山地帯にありながらも、ウィル王家は富を築いた。その民の多くは牛を飼い、平穏な暮らしを営み、永く飢える事はなかった。

 しかし、この王家にお世継ぎとなる王子が誕生する事はなく、まもなく王女が二十歳の誕生日を迎えようとしていた。この機会に、のちの王となるべき王子を養子として、他国より婿入むこいれする事になった。多数の申し出を受けたが、この地域で最も大国であるルブラン国の第三王子、レンドル・ブランが選ばれた。これは歓迎すべき事だった。ルブラン国には肥沃な広い穀倉地帯があり、また堅固な軍隊を保有していると、よく知られていた。ところが婚礼を利用して、戦略的な陰謀が図られる恐れがあり、その兆候がうかがえ知れ、婚礼を中止するべきとの進言がなされた。しかし、このマルガレッタ王女は、たいそうレンドル王子を気に入ってしまい、婚礼を予定どおりとり行うよう、強くお望みになった。


 婚礼の儀式は、王国を挙げての、稀に見る盛大な祝祭となった。お迎えするレンドル王子の肖像画が、著名なる宮廷画家のカッセル・ロドにより描かれた。そして、ウィル王宮の黄金の間に、マルガレッタ王妃の肖像画と共に掲げられた。この時から、この肖像画はこの王宮の「繫栄のほまれ」と言われ、国民に愛された。

 お二人は幸福な日々を過ごされていたが、まもなくして、老王が急に病いの床に伏してしまった。この機をついて、かねてより不仲であった隣国のジェランド皇国軍が侵入し、戦争が勃発した。新王子(レンドル王子)は即座に軍隊を率いて応戦した。なぜか期待していた、レンドル王子の故郷、ルブラン国の援軍を得ることは出来なかった。これはルブラン第二王子(ジャフー王子)の嫉妬のためだと噂された。

 やがて戦況は悪化し、苦しい戦いを余儀なくされたが、レンドル王子は果敢に戦った。しかしついに、レンドル王子の戦死の悲報が届くに至った。程なくして、ジャフー王子(第二王子)の率いるルブラン国の援軍が到着した。苦戦のウィルランド王国軍は、この援軍を得て戦況を好転し、敵軍を敗走させることができた。そしてついに、終結をむかえた。

 勝利を得て、凱旋したジャフー王子は、未亡人となったマルガレッタを第二妃として、ルブラン直轄ウィル国と国名を改め、かつてのウィル王宮を彼の居城とした。一転して、第二妃となったマルガレッタ王妃は、手のひらを返したように、この新たな王子に媚び慕い付き従った。なんと、故レンドル王子の肖像画は、その座を奪われ地下に死蔵された。そして代わりに、現直轄ウィル国王となったジャフー王子の肖像画が、その座に掲げられた。こののち、国政は安定し、長らく平和な時期が続く事となった。

  

 やがて直轄ウィル国王(ジャフー王子)は齢を重ね、ルブラン王を継承し、第一王妃の住む故郷のブラン城に居城を戻した。しかし、マルガレッタ第二王妃はウィル王宮にとどまり、お一人で暮らす事を選んだ。そして無き夫婿である(故)レンドル王子を懐かしむようになり、地下に死蔵されていた彼の肖像画を探し出し、自室である寝室の小部屋の壁面に掛けていた。

 その頃より王妃は、誰一人として小部屋に入る事を拒むようになり、そして新年を迎える前に、お亡くなりになった。訃報は、直ちにブラン城に届けられた。ジャフー王は精鋭の家来を従えて、昼夜、馬を走らせウィル王宮に駆けつけた。この王宮を出て以来の再開は、悲しむべき出来事として語られている。

 ご遺体が安置された王妃の小部屋に入ると、そこは窓から朝日が指し入り、まことに静寂であった。亡き王妃の眠る床、その傍らの壁に掛かるがくに目にとまる。故レンドル夫に見守られているものと思い見入ると、驚いた事に、それは彼の肖像画ではなかった。それは、古びた髑髏の絵であり、恐ろしい姿を写したものであった。そののち、この絵画は「呪われし絵」と呼ばれた。そして、この王宮(かつてのウィル王宮)に居住する者は、誰一人いなくなった。のちに、ここは廃墟となって滅び、今日に至るまで残り伝えられている。

 

 今この肖像画は、国立歴史博物館に所蔵されている。

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