第2話

 ネタをやって満足したので、茶番を切り上げる。

 周囲を見渡すと白けた視線がほとんどで、(暫定)女神が困ったような視線を向けてくるくらいだ。先程の同志は元の高校勢グループに戻った。

 わざとらしく咳払いをして、場の切り替えを図る。


「ゴホン。……続けてくれ」


 心底の呆れと侮蔑の入り混じった視線が向けられる。いつもの事なので気にしない。

 しばらくすると、女神の方も気を取り直したらしく、説明を再開した。


「これから皆様方をお送りする世界の名は、ラウデア。皆様方風に言うと、剣と魔法の世界となります」


 厳かに女神は告げる。

 その説明を聞いての反応は三通りになった。

 不安そうにする者。仕方が無いと諦める者。期待ではしゃぐ者。

 オイラはといえば先程からのやり取りを反芻して、思う。

 うさんくせぇな、と。


「皆様方には今回の事故のお詫びとして、事故に関わった神々からスキル……と言えば解りやすいでしょうか?ラウデアで十分に生活できるだけの能力を、お渡しするつもりです。どういった能力が良いかは、皆様各人にお選びいただきお任せしたいと思っております。

 皆様、ステータスオープンと唱えていただけますか」

「「「「「ステータスオープン」」」」」


 女神の説明に従って、全員が一斉に唱える。オイラもここで疑念を出してもしょうがないので、一緒になって唱える。

 すると、こんな画面が目の前に現れた。


 名前:鏡神 楽也

 年齢:28

 称号:外道カルテット(享楽)▽

 スキル:10▽


 ▽の部分をクリックすると、他の称号や取得可能スキルを見れたりするらしい。

 というか、外道カルテットとはまた、懐かしい呼び名がきたもんだ。中学の時のあだ名やで、コレ。

 当時、よくでもないけど、たまにつるんでいた連中に、多少……多大な性格的な問題がある奴等がいて、そいつ等と係わりがあったために、一緒くたにされて付けられたあだ名である。

 他の称号も見てみるが、中学時の目立つ黒歴史なあだ名から、道化者とかの軽い評価までいくつも並んでる。

 スキルの方はラノベや漫画でよく見る、剣術とか火魔法とかが並んでいる。

 一通り目を通そうと眺めていると、女神が説明を再開する。


「今、皆様方がご覧になられているのが、お渡しする能力を決定するためのツール画面となります。その詳しい説明を今からさせて頂きます。

 名前と年齢については割愛させていただきます。

 次の称号ですが、小学校卒業や真面目などの皆様方の今までの人生で、他人から向けられたあらゆる評価が表示されます。この称号が多いほど、また他人から強く、多くの感情を向けられた評価・称号である程、皆様方にお渡しできるスキルが増えます」


 その言葉に反発の声が上がる。


「それじゃあ、称号が少ないと、貰えるスキルの数が少ないって事じゃないか!?他愛のない評価まで称号になるんだったら、年齢が高いほど有利だし!!」

「……申し訳ございません。皆様方にお渡しするスキルは、一部とはいえ神の力。他人からの称賛、言い換えれば信仰をその身に宿している方ほど、どうしても受容できるスキルは多くなってしまうのです。皆様方に一律にスキルをお渡ししようとすると、効果の低い物ばかりになってしまうか、一つか二つだけになってしまうのです」


 落ち着いた女神の釈明に、反発していたグループは黙り込むしかなかった。

 配慮した結果だと言われてしまえば、どうしようもない。貰えるものは多い方が、普通は良いだろうし。

 納得してもらえたと見たのか、女神は説明を続ける。


「スキルの横の数字、ポイントは、称号を消費する事で増やすことができます。初期の10Pはわたくし共から、一律で人の身に与えられる最大限のポイントとなります。お察しの方も多いでしょうが、ポイントを使用する事で、スキルを取得する事が可能です。

 また、ご自身の称号は他の方に譲渡することも可能ですので、お子様などにお譲りしたい場合は、称号の欄から操作をお願いします。

 それでは、ごゆっくりお選びください」


 それで女神の説明は終わりになるらしい。

 称号の譲渡の辺りで不穏な空気が発生したが、女神の目の前で強盗できる度胸のあるやつはいないらしい。直ぐに霧散した。

 今は全員が大人しくステータス画面とにらめっこ中だ。

 質問が有ったので、再び手を挙げる。

 女神は一瞬だけ、若干、嫌そうな顔をした。


「なんでしょう?」

「このステータス画面って、転生先でも使えるの?」

「ああ!大変申し訳ございません。うっかりしておりました。スキルを取得可能なのは、この場だけでございます。ステータス画面の表示についても同様です。

 ご指摘ありがとうございます」


 礼を言ってくる女神に、ヒラヒラと手を振ってから画面に視線を戻す。

 そして、考える。このままスキルを取得してよいものか。

 それとなく辺りを窺うと、他の人間はこの場限りのセリフに、先程よりもはるかに真剣に画面をにらんでいる。

 このシチュエーションを不自然とは感じていないらしい。昨今のサブカルの影響だろうか?日本人は平和ボケしてると言われても、仕方がないと思えるな。

 先程からのやり取りで思うに、あの自称女神はこちらの心を読んでるわけではなさそうだ。

 オイラのネタに走った行動に対応できず、それが続いたらイヤそうな顔を隠せなかった。演技の可能性もあるけど、見抜けなかったんなら相手が上手だっただけの事。

 とにかく、初期から失礼な思考をしてるのに、何の反応も無いなら思考を読む、とかできないと考えていいだろう。

 それなら、ネタに走らず、思考を全開にしても良さそうだ。

 おかしな点はいくつも有る。大きなところでは3つ。


 1つ目。こちらの文化にあまりに精通しており、分かりやすくシステムを作り上げてる。突発的な事故対応であるはずなのに。神様だからと言ってしまえば、それまでだが。

 2つ目。誠意ある対応といった様子を見せておきながら、自分たちが作り上げたシステムの詳しい説明はしてこない。スキルの初期10Pとやらも、称号消費で得られるポイント配分も、これでは妥当かどうかも判断できない。取得スキルに掛かるポイントも、だな。その辺、それとなく思考誘導してる節がある。

 そんで最大の理由である3つ目だが……。それは後で確認しよう。



 結論。目の前の女神っぽい何かは信用できない。

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