ガラス越し

第34話

(あ、)



ガラス越しに、見慣れた制服の女の子を見つける。



自分が気付いたのと同じ位のタイミングで、彼女も俺に気付いた。




(小春ちゃん)



お客さんはいないけど、他のスタッフに目立たないように小さく手を振る。



それを見た小春ちゃんはピクッと肩を揺らし、素早く頭を下げて、そそくさと歩いていってしまった。




(………、)



あら。行っちゃった。



とりあえず振った手をパソコンのキーボードに戻し、仕事を再開する。




(……なんかあったのかな?)



そう考える視界の隅で、バスが右から左へ走っていくのがわかった。






小春ちゃんは、(たぶん)この近所に住んでいる、高校生の女の子で。


存在自体は、自分がここで働き始めた時から知っていた。



いつも同じ位の時間帯のバスから降りてきて。


ウチの店を少し見ては、時折控えめな笑顔を見せる。



ウチは車販売の店で、店頭に3種類の車を置いてあるから、きっと彼女は、車が好きなんだろう。



俺も車が好きでこの職場に就いたから、いつかまた面と向かって会えた時、車について語り合いたいなぁ。





ちなみに名前を知ったのはつい最近。


ある日見かけた時、鞄に、少し前まで無かった大きいキーホルダーがぶら下がっていた。


ハートの形の、いかにも女の子が好きそうなやつで、その中央に平仮名で“こはる”と書いてあった。




(こはるちゃんって言うのか)



唯一の自慢とも言える視力によって得た情報に、何故かちょっと得したような気分になって、その時、1人でにやけてしまったのだ。









『日比野、ほれ』



不意に、自分の右側に湯気が発生した。


ゆっくり振り返ると、同僚の内海が両手にカップを持って立っていた。



「ありがと」



受け取ったカップの中には、俺の好きなカフェラテ。


それを一口飲んだ時、内海が言った。




『そういや聞いたぜ?お前、女子高生追いかけたんだってな』


「―ごほっ!」



余りにも飛躍した表現に俺はむせこんでしまい、ゲホゲホとせき込みながら涙が混みあがってくる。



内海はそれを見て、腹を抱えて笑っている。




「違うよ!突き飛ばされてケガをしたから、応急処置をさせて貰いに行ったんだよ!」


『わかってるって。ハンカチ差し出すなんて、ジェントルマンじゃねぇか』

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