reservation
第9話
「………、」
あたしは、二階の窓から外をぼんやりと眺めていた。
…正確には、今から玄関を出て帰ろうとしている2人の後ろ姿を眺めていた。
寄り添う2人。
お互いが笑顔。
手は自然に繋がれていて。
あぁ、幸せそうだなぁって、つくづく思った。
「………、」
あぁ、ダメだ。まただ。
折角夕日の鮮やかなオレンジ色が綺麗なのに、水の鼓膜でぼやけて、夕日が水に溺れているみたいに見える。
頬へ伝う前に、拭かなきゃ。
――ガチャッ。
『―あれ?楠原?』
――ビクッ!
ティッシュを取って目元を拭おうとしていた時に聞こえた、ドアを開ける音。
そしてその後に続いて聞こえた知っている声に、あたしはビックリして思いっ切り肩を跳ね上げた。
『お前、まだいたの?』
「は、はい。お疲れ様です堀田さん。」
後ろの声の主は、同じ企画部の3つ上の先輩。堀田智哉さん。
てっきりこのフロアにはもう私だけしか残ってないと思ってたけど、堀田さんもまだいたんだ……。
『お疲れ…って、お前、何してんだ?』
「え、何って、夕日見てるんですよ。綺麗でしょ?」
『………、』
「あたし、ここから見る夕日、大好きなんですよね。今なんか丁度沈みかけで――…、―キャッ!?」
ペラペラと喋っていた所で、急に左肩を掴まれて、堀田さんの方へ振り向かせられた。
あたしと目が合った堀田さんは、微かに目を見開く。
『お前…、泣いてんの?』
「……、」
……だから、こうやられるまで堀田さんの方、見れなかったのに。見られたくなかったのに。
堀田さんがいきなり来たから、涙、頬を伝わせちゃったじゃない。
『なんで泣いている?』
「…夕日があまりにも綺麗で。」
『嘘付くな。お前がそんなんで泣くか。』
「……、」
そんなんで…って、失礼だな。あたしだって風景で涙ぐむ時ぐらいあるぞ。
そう思いながらも、あたしは視線をさっきまで見ていた所に再び下ろす。
堀田さんも倣って、窓の外、下を覗き込んだ。
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