第7話
―…その瞬間、頭の中が真っ白になって、それと同時に、目頭へ熱いモノが込みあがってきた。
ここでバレてはいけない。見られてはいけない。
「…すみません。ちょっと暑いんで、風に当たってきます。」
『え、郁美ちゃん―、』
私を呼ぶ悟先輩を無視してお店の外へと向かう。
ガラガラと鳴るドアを開けて外に出ると、まだ少し肌寒い空気が私の体を包んだ。
「はぁ………、」
雫が溜まった目尻を、お化粧が崩れないようにそっと拭う。
今の大学に入ったのも、このサークルに入ったのも、――少しでも斗馬先輩の傍にいたかったから。
なのに、あんな風に言われちゃぁなぁ……。
『郁美ちゃん。』
涙目でぼんやり空を見ていると、悟先輩の声が後ろから聞こえて、思わずピクッと肩が上がる。
振り向けないままでいると、悟先輩が私の前まで回ってきてくれた。
「す、すみません、急に飛び出しちゃって…。」
『んーん、大丈夫だよ。……郁美ちゃんってさ、』
悟先輩が言おうとしているのがわかって、私は小さく頷く。
ヨシヨシと、頭を優しく撫でてくれた。
『ごめんね。実はさっきの発言は冗談なの。ちょっとした裏があってね。』
「裏、ですか…?」
『うん。郁美ちゃんを泣かせちゃったのは予想外だったんだけど…。』
と、そこで一旦言葉を区切ってから、ちらりと私の後ろに目を向けたかと思うと
『郁美ちゃん、睫付いちゃってる。取ってあげるから目瞑って。』
そう言ってきたので、私は不思議に思いながらも素直に目を瞑る。
悟先輩の手が頬に触れたのを感じ取った時――…、
「―…むぐっ!?」
何かに、思いっきり口を塞がれた。
『―…すいません悟先輩。こいつに悟先輩は勿体ないですよ。』
……背中に当たる温もり。頭上から聞こえる低い声。
……私の好きな、声。
斗馬先輩の手によって口を塞がれている私は、びっくりしたのもあって声が出せない。
目の前では悟先輩がにっこり笑って『そぉ?』なんて言っている。
『郁美、帰んぞ。送るから。』
「え、親睦会はっ?それに悟先輩…っ、」
『いいから。』
私の口を塞いでいた手が、今度は私の手を握って。
グイグイ引っ張られるから、居酒屋も悟先輩もすぐに遠ざかっていく。
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