4.Evergreen

第34話

最寄りの駅から、大通りを抜けて一本奥の道に入ったところに、お気に入りの雑貨屋さんがある。


アンティークの置時計やお皿など、インテリア雑貨を扱っているお店で、店主のおじいさんがいつもレジの向こう側にちょこんと座っている。



カフェで仕事をした帰りに何となく寄ってみれば、その日は珍しく、観葉植物が売られていた。


片手で持てるほどの小さな鉢植えには「パキラ」というネームプレートが下がっているけれど、私にはその名前を見てもピンとこない。



きっと理央だったら、どんな植物か知っていて教えてくれるんだろうな、と考えて、もう2週間ほど顔を見ていない男のことを思い出した。



思い出した、という表現は正確ではないかもしれない。


実際のところ、私は理央のことを忘れていられる瞬間なんてほんの少しもなくて、ただ、ずっと頭のどこかにある彼の存在が、この植物を見たことで一層強く意識されただけだ。




植物なんて育てたこともない私がパキラの鉢を買うことにしたのは、次はいつ来るかも分からないその男が、私の部屋を見た時に嬉しそうに笑う顔を想像してしまったからだ。



我ながら無駄な努力だと思う。彼を繋ぎとめておきたいなら、他に頑張るべきことは多分いくらでもある。




最後に会ったときの理央は、まだ、私のことが好きそうな態度を上手にしていてくれた、はずだ。

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