第8話

みのりの言葉に気分が上がってふにゃりと締まりなく笑ったら、「えーなにそれ。かわいい、好きい」と小さい子にするように頭を撫でられた。


私は基本的に人とのパーソナルスペースは広めに確保したい方だけど、みのりの距離感にはすっかり慣れた。



今日の私は、かなり近づかないと分からないくらい僅かに、香水を纏っている。


気付くとしたら、みのりくらいかな、と思いながらドレッサーの前で香水の瓶を選んだことを思い出した。



「でもさあ。せっかくの華金、会社の集まりで潰れるのはもったいないよねえ」


「あ、そっか、今日金曜日だ」


「よくそれで、社会人やってるよね」


「うーん、ほら。やっぱり人と会うことが少ないと、どうしても、ね?」


「郁に会う機会を虎視眈々と狙ってる男たちはたくさんいるけどね~」


「ふふ、その手には乗りませんよ。三年目ですから。みのりの冗談を本気にするのは卒業」


「警戒心が強いのか弱いのか」



今日はもう金曜日だったのか。


たしかに、食事会の日付を確認して家を出てきたけれど、ちゃんと実感のある情報として頭に入っていなかった。




理央を見送ったのは月曜の朝だから、もう四日は連絡を取っていないことになる。


考えないように、あえて意識しないようにしていただけかもしれない。

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