第83話

「俺みたいな厄介な大人はやめとけって、言っただろ。篠宮の周りにはもっと、素直で優しい男がいるよ。」


困ったような顔でそう言った幸坂先生は、それでも息を呑むほど月明かりが似合っていた。


拒絶されたってそう分かっているのに、幸坂先生が彼らしくない回りくどい表現をするから、私はこの気持ちをどうして良いのか分からなくなってしまった。


幸坂先生は何も言わない私から目を逸らすと、ちょっと昔話でもするか、とグラウンドの方に顔を向けた。


フェンスに手をかけて、遠くを見ているみたいだ。



「俺にも大学時代、好きな人がいた。一歳上のサークルの先輩で、綺麗な人だなと思ってたから付き合えた時は単純に嬉しかった。でも結局、俺はただの浮気相手に過ぎなかったんだ。先輩にはずっと付き合ってる彼氏がいて、その人が就活で構ってくれない間、寂しさを埋めるために俺を利用してただけだった。」



いつか見たような悲しそうな横顔の幸坂先生に、私の方が泣き出したい気持ちになった。


先生にそんな顔をさせるほどの思い出を植え付けたその人が、ひどいと思ったし、羨ましいとも思った。

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