第47話

教室には他にも数人のクラスメイトがいたけれど、みんなそれぞれ単語帳を開いていたりスマホをチェックしたりしていて、私たちの席の周りには誰もいなかった。


「あーあ、私も明日の英語の予習しなきゃ。」


こなしてもこなしても次々に私を待ち受ける課題の山の存在は常に私の頭をパンクさせようとしてくるけれど、一度どこかへ行ってしまったやる気はすぐには私の元に帰ってきてくれそうにない。


少しでも涼しい場所を探すように机にぺたっと頬をつけて、90度回転したかっきーの横顔を眺めた。


「俺なんか午後も日本史あるんだから。すみれちゃんも頑張って。」


かっきーがぱたぱたと半袖のワイシャツを揺らしながら、下敷きで起こした風を私の方へ送ってくれる。


夏服のときは当たり前だけどワイシャツ一枚だけで、かっきーのあの深い緑色のパーカー姿が見られなくなったことを私は少しだけ寂しく思っている。


私の栗色の前髪がふわっと浮いて、目に入ったその色にどうしてか幸坂先生の、私とは違う真っ黒な髪の毛の色を思い出した。

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