第43話
1人窓際の水道の前に取り残されていた私もやっと動き出して、さっきまで実験をしていた机の下に自分のノートを見つけた。
それを無事に回収してそのまま顔を上げると、幸坂先生は黒板の代わりに壁に埋め込まれたホワイトボードの文字を消していた。
私だったら背伸びをしても届かなくて、軽くジャンプしないと消すことが出来なそうな高い位置に書かれた化学式も、幸坂先生は少し腕を伸ばしただけで一気に消した。
「どうして化学室は黒板じゃなくてホワイトボードなんだろう。」
小さな声で音になったそれは、自分でも脈絡のない疑問だと思った。
だから、別に答えを期待していたわけではなかった。
「さあな。でも、俺的にはこっちの方がチョークで手が汚れないからありがたいけど。」
無視をするのも悪いと思ったのか、幸坂先生は大して興味もなさそうにホワイトボードの方を向いたままそう返してくれた。
「ふふ、それってちょっと素敵なことですよ。先生が良いと思うものが、先生の化学室にある。キュンとは少し違うけど、気分を上げる手助けにはなります。」
「…そういやお前、思考回路お花畑なんだった。」
「幸坂先生までそれ言うんですか。馬鹿にしてます?」
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