第2章 中学生編
第35話 揺れる進路
県大会が終わったある晩、蓮は自室の机に肘をつきながら、窓の外の月をじっと見つめていた。
回帰前の記憶が、ふと胸をよぎる。
——翔、迅、桜と一緒に進んだ海星中。
——全国大会、全中制覇。
——あのときのチームは、間違いなく“最強”だった。
あの未来には確かに、輝きがあった。だが——。
今、この時間軸では、すべてが違っていた。
翔も迅も小学生のうちから頭角を現し、レイヴンズは本物の強豪チームになった。
回帰前にはなかった光景が、目の前にあった。
それだけではない。
父がこの春、アメリカ企業へ赴任の打診を受けた。シカゴの新しいプロジェクト。
当初、断るつもりだったらしいが、蓮がバスケで将来を見据えていると知ると、父の表情が変わった。
「蓮。アメリカでやってみたいって気持ち、あるか?期間は3年だ」
その一言は、胸の奥のなにかを強く揺さぶった。
NBA。世界レベルの育成環境。夢見たことは、何度もあった。
(ここまで、やってきたじゃないか。……でも)
同時に、あの公園の風景も脳裏に浮かぶ。
翔の真っ直ぐな視線。迅の情熱。桜の応援。
何より、自分を「エース」と信じてくれた仲間たちの存在。
(もし俺が、アメリカに行ったら……)
海星中の未来はどうなる?
翔たちと、もう一度海星で「最強」を目指すという道は?
——あの未来にはもう、戻れないのか?
蓮は机の引き出しを開け、一枚の写真を取り出す。
レイヴンズ全員で撮った集合写真。
皆の笑顔が、彼の中の「現在」と「過去」を繋ぎとめていた。
夢か、仲間か。
選ばなければならない時が、もうそこまで来ていた。
(……でも、どっちが正しいかなんて、きっと誰にもわからない)
(だから俺は、俺の目でちゃんと見て、ちゃんと考える)
蓮はそっと立ち上がり、リビングにいた父の元へ歩み寄った。
「……父さん。話があるんだ。」
彼の声には、まだ答えはなかった。だが、それを決める強さが、確かにあった。
月明かりが差し込む夜。
少年は、静かに未来への扉に手をかけようとしていた。
◇
県大会を終えた数日後の夕暮れ、公園のベンチに、いつもの4人が静かに腰を下ろしていた。
冷たい風が吹き抜ける空気の中、翔が缶ジュースを差し出す。
「はいよ、蓮。エース様に差し入れ」
「うるさいよ、翔……」
蓮は苦笑しながら受け取る。
その横で、迅はベンチにもたれながら夜空を仰ぎ、桜は膝を抱えて静かに風の音を聞いていた。この日3人は蓮から大事な話があると呼ばれていた。
しばらく、誰も何も言わなかった。
この時間が、もうそう長くは続かないことを、4人とも気づいていた。
蓮は静かに立ち上がり、皆に背を向けて空を見上げた。沈む夕陽が西の空を朱に染めている。
「……俺、アメリカ行くことにする」
その言葉に、風の音が止まったように感じた。
翔が思わず立ち上がる。
「は? アメリカって……中学から?」
「うん。父さんがシカゴに赴任する。3年。もし俺も一緒に行けば、向こうでバスケができる」
「マジかよ……」
翔が俯き、言葉を探すように拳を握る。
桜は驚きながら聞いた。
「蓮、決めたの?」
蓮は頷いた。
「まだ迷ってる。でも、やっぱりチャンスだと思う。たぶん、今しか掴めない。県大会で優勝して、向こうでもやれると思えるようになった」
迅は拳を握ったまま、じっと蓮を見た。そしてゆっくりと口を開く。
「……オレさ、正直、悔しいよ。蓮がいなくなるのも、もう一緒に中学でプレーできないのも。だけどな、オレ達のエースがアメリカで通用するって、本気で思えるから……だから、負けねえからな」
「オレも」
翔が静かに立ち上がる。
「俺たちは俺たちで、海星で最強を目指す。蓮、お前が世界に行くなら、俺たちは日本で一番になる」
蓮は目を細めて、笑った。
「それが、いちばん嬉しいよ」
桜がふと声をあげた。
「ねえ、全国大会……その前に、ちゃんと3人で勝ってよ。最高のメンバーで、最高の最後を作ろう。私もそんな3人に負けないように応援する!」
3人は頷いた。
夕暮れの公園に、4つの誓いが響いた。
どんな場所に行こうと、どんな道を選ぼうと。
この夜、この瞬間に交わした想いは、きっと彼らの未来を照らし続けるのだろう。
◇
今回から中学生編をスタートします!引き続きよろしくお願いいたします!
いつもお読みいただきありがとうございます!たくさんの♡と☆ありがとうございます!初作品で勢いと昔の記憶なんかを頼りに書いているので、何かおかしな点などあればコメントなどで指摘いただけると助かります!
また、♡や☆もいただけるとモチベアップになりますので、ぜひよろしくお願いします!!
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