くらいゆめ

 あたりは、真っ暗だった。


 空も、地面も、何もない。

 ただ、果てしない闇が広がっている。


 どこに立っているのかもわからない。

 重力の感覚もなく、足元の感触すらなかった。


「……ここ、どこ……?」


 声を出そうとしても、喉が詰まる。

 喋ったはずなのに、耳には何も届かない。


 まるで、自分の存在が、最初からなかったかのように。


 ────声が、聞こえる。


「……また無視?」

「うづきってさ、いつも暗いよね」

「なんか、ちょっと気味悪くない?」

「いつもだんまりでさ、何考えてるかわかんないし」

「卯月さんって、友達いるの?」


 声が波のように、次々と押し寄せてくる。

 耳元じゃなく、頭の中に直接響いてくる感じ。


 ひとつひとつが、棘のようだった。

 胸の奥が、じわじわと痛んでくる。


「やっぱ、変だよね。あの子」

「気持ち悪い……」

「いなくなればいいのに」


 やめて、やめて、やめて……!


 声を出そうとする。

 喉が震える。

 でも、言葉は泡みたいに消えて、何も残らない。


 暗闇の中で、立っているのか座っているのかもわからない。

 気づけば、膝が折れていた。

 重力のないはずの場所で、身体が倒れていく。


 何もない空間に、ゆっくりと沈んでいく。


 身体の周囲を、言葉が渦を巻くように漂っていた。


「声も出せないなんて、終わってるよね」

「見てると不安になる」

「なんか、うつりそう」


 目を閉じたくても、閉じられなかった。

 耳を塞ぎたくても、手が動かなかった。


 言葉たちは止まらない。

 音が形になって、私の身体を何度も何度も打ちつける。

 心がじわじわと溶けていく。


 ──もう、消えてしまいたい。


 そう思った瞬間だった。


 ふと。


 視界の隅に、小さな光が灯った。


 それは、星のように瞬いていた。

 ひとつだけ、暗闇の中で淡く、確かに。


 私の視線が、その光に吸い寄せられていく。


 声たちはまだ、渦巻いていたけれど、

 その光のまわりだけ、静かだった。


 耳の奥に、誰かの声が届いた。


 小さくて、でもはっきりと。


 ──ことは……


 胸の奥に、あたたかい何かが広がる。

 安心する。

 この声は、きっと……大切な誰かの声。


「ことは……だいじょうぶ、だよ……」


 その声に包まれた瞬間、身体がふわっと宙に浮かんだ。


 闇が、少しだけ遠ざかる。

 足元が、光の方へと向かって引っ張られていく。


 何かに抱きかかえられているような感覚。

 苦しくない。

 息ができる。


 ふわりと、背中が持ち上がるような感覚とともに、

 その声が、はっきりと届いてきた。


「あたしにとって、ことははお陽さまなんだよ!

 そばにいてくれるだけで嬉しくなるの!

 きゃ~!まぶしぃ~!」


 その言葉が、心の奥深くに差し込む。


 まるで、心の影が晴れていくように──


 ふっと、目の前が明るくなっていった。


 ────そして、私は目を覚ました。

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