好きな人が兄と結婚しました

川島嘘

終わりか始まりか

「ご婚約おめでとうございます」


 主役の2人が客人の対応をしている姿を少し離れたバルコニーで眺める。

 多くの人々から祝福の言葉を贈られているこの2人は、僕の兄とその婚約者になった人である。


 ヴァルター兄様はこの国の第1王子でありこの国の将来を担っていく人物だ。

 そして、兄様の婚約者はこの国の聖女であるコユキ様だ。

 3年前に異世界から呼び寄せられた彼女は、この国にはない特別な名前を持っている。


 この国には聖なる力を持つものが生まれないため、どこかにいる聖なる力を持つものを召喚する。

 聖なる力を持つものの出身は遠い国か異世界か、そして性別もバラバラだが、男であれば勇者に。女であれば聖女に。それぞれの道が決められている。


 そして、今回召喚されたのがコユキ様であったため、聖女となりアストラリウス王立学園へ入学した。

 コユキ様が召喚された年、ヴァルター兄様は魔術学部の1年生であったものの生徒会長を務めていた。そのため、コユキ様の案内や学園生活の基礎を教える立場になったらしい。

 そこで仲を深めたのだという。




 コユキ様はどんな人にも分け隔てなく接し、その聖女の力かはわからないがどんな人も癒すようなパワーを持つお方だった。

 魔術学部の人々は剣術学部を見下すが、コユキ様はそんなことをしなかった。

 怪我を負った僕を心配し、聖女の力で治してくれた。

 そんなお優しくてひたむきなところを好きになった。


 もちろん叶うことのない想いだとわかってはいたが、好きにならずにはいられなかった。



 やっと2人に挨拶する人の列が途切れたところで重たい足を引き摺りつつ近づく。

「ヴァルター兄様、コユキ様、ご婚約おめでとうございます」

「あら、ノアディス様!…ありがとうございます」

 コユキ様の嬉しそうにはにかむ笑顔に、心臓がキュッと締め付けられる。

 この人は僕の婚約者ではない。その事実がどうしても僕を苦しめる。

「ノアは早く婚約者を決めるべきだな」


 僕には兄様と違って婚約者が存在しない。この国の貴族以上の身分の人間は7歳になると婚約者があてがわれることがほとんどだ。しかし僕は幼い頃体が弱くて婚約者を決めることができなかった。死んでしまうかもしれない第2王子の婚約者だなんて、誰も引き受けたがらないのは当然だ。


「ヴァルター兄様…。そうですね、肝に銘じます。」

 兄様に悟られないよう、笑顔で言葉を返す。ちゃんと笑顔が作れているだろうか。

 


 心からお慕いしていた方の婚約。これはコユキ様自身が選んだ結果だ。コユキ様が兄様を好きになるのもわかる。

 でも、コユキ様には申し訳ないが、心から祝福できない。気づかない内に強く握り締めていたのか手のひらが痛い。

 今日は早めに寝よう。疲れてしまった、傷んでしまった心は、早めに癒すのに限る。


 早く2人から離れたくて、適当な言い訳を述べて逃げ出した。

 まだまだ婚約発表パーティーが終わる気配がないが、早足で自室に戻る。

 後ろにした会場がなんだか騒がしいがそんなことを気にしていられなかった。

 自室に戻った僕はジャケットを脱ぎ捨てる。侍女に小言を言われる未来が見えたが、今はそんなことを気にする余裕がない。ベッドに倒れるように寝転がると、目を閉じる。こんな日なのに、初めてコユキ様に出会った時の夢を見た。

 どうやら僕は自分が思っている以上に執念深いらしい。






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