第3話
ある日、事件は起きた。私のデート写真を、週刊誌に撮られてしまったのだ。
『ゆりりん、5点。彼氏ができて、もう俺たちのことなんてどうでもいいのか、歌もダンスも手を抜いているように感じる。アイドルとして失格。見損なった。早く卒業すればいいのに』
タクミの投稿にはこう書かれていた。他の人の投稿も、攻撃的な内容のものが見られた。
『裏切り者、嘘つき』
『プライベートの服ダサい』
『加工なしだと、思ったよりブス』
彼氏の有無とは関係ない点まで誹謗中傷されていた。
別に浮気や不倫をしていたわけではない。ただ、好きな人と好きな場所へ出かけただけだ。それに「彼氏がいない」と言ったこともなく、裏切り者、嘘つきと言われる筋合いはないと思う。テレビや雑誌の取材では「どんな人がタイプ」だの「デートで行きたい場所は」だの聞いてくるくせに、いざ相手がいるとなると世間は手のひら返しだ。
たしかにアイドルは「夢を与える」存在だ。私たちも、恋愛対象として見てもらうような売り方をしてきた自覚はある。できれば彼氏の存在は知りたくないという気持ちも理解できる。だからデートの写真は極力撮らないようにし、彼氏にもSNSには絶対にアップしないよう釘を刺していた。たとえ私が写っていなくても、どこからバレるかわからないからだ。
なんで仕事は真面目に頑張っているのに、ここまで悪く言われなくてはならないのだろう。
そして悲劇はこれだけでは終わらなかった。
しばらくすると今度は男性マネージャーともできてるという噂が立った。いよいよ事実とは異なるわけだが、世間では二股だ、ビッチだなどと言われるようになった。
もちろんマネージャーとはそんな関係ではない。彼氏バレのことで炎上しているから精神的に参ってきて、一対一で相談したいと思っただけだ。ファミリーレストランで相談していただけなのに、彼氏に隠れて密会、などと週刊誌に書かれてしまった。そして記事のタイトルには、私たちの曲名である「どっちが本命?」を引用して「どっちが本命? 同級生と年上マネージャー」と書かれていた。
SNSでの批判も前回以上に多くなった。
『前回は恋愛してるだけなのに叩かれてかわいそうって思ったけど、擁護する必要なかったな』
『だから言ったじゃん、絶対ビッチだって』
『もしかして事務所やマネージャーの贔屓でセンターになってるんじゃない?』
前回はまだ、十代の少女なんだから恋愛して当たり前だという声の方が大きかったように感じたが、今回は一気に味方が減ったような気がした。
そしてついに私は耐えられなくなり、タクミの望む通り、卒業することになった。
*
卒業ライブの当日、楽屋で優しいレナちゃんが号泣しながら「ゆりりんは悪くないのに」と言ってくれた。
「ごめんね。みんな元気でね。私も応援してるから」
ライブのあと私はまた、SNSを眺めた。タクミの投稿には、ゆりりんは0点と書かれている。そしてそれに対し、『お前のせいでゆりりんは卒業することになったんだ』と怒っているアカウントがある。もうしばらくこの人たちの投稿を見ることはないだろう。
ショウは最後まで握手会に通い詰めてくれたし、『ゆりりんがいなくなるなんて、考えられない』とだいぶ落胆しているようだった。申し訳ない気持ちと、そこまで言ってくれることを嬉しく思う気持ちと、いろんな感情が湧き出てきた。
ショウのようなファンが増えれば平和なのに、と思いながら、その日は眠りについた。
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