第15話 オナカヲスカセタオトウトガ、マッテル

「……瓶。この袋、はいるだけ」

「あんらあんら、ポーション売りの娘さん。今日は一人で来たのかい?」

「思った。人に頼ってばかりは、よくない」

「そうかい、そうかい、えらいねえ。だったらいくつかおまけしておくからねえ」


 空き瓶を買いに立ち寄った道具店。

 店主の婆さんから孫扱いされている俺はさておき、ついに一人で買い物をすることができた。

 そんなこんなではじめてのおつかいミッション完了だ。


「手始めにこれから……!」


 まだまだ俺も捨てたもんじゃないな。

 一人でこなせたことによりテンションは普段と比べ高い。

 帰宅すると早速、いつものとは違う黄色の薬草と空き瓶を掛け合わせる。

 この薬草は今まで発見できなかったものだ。もしかすると鑑定スキルのレベルアップ効果によるものなのかもしれない。


 そうして完成した黄色のポーションは『体力を回復させる。赤のポーションより効果量が高い』とある。

 これはランクの高い冒険者向けの一品になりそうだ。


 それからもう一つは『魔力を回復させる』青いポーション。


「効果のほどはどう?」

「危ない時に持ってたらすっごく安心だね。これ絶対売れるし、なんならあたしが全部買う! お金ないけど!」


 エティアのお墨付きもあり増産していくことは決定済み。

 だが三種作ることを考えると、一日に作れるポーション数に限りがあることがネックになるな。


『というわけなんだけど……』

『そういうことでしたら、冒険者迷宮に赴くとよいでしょう。その4層に上限数開放に必要なアイテムが眠っています』


 困ったらエルミに聞けば解決するだろう雰囲気がある。

 幸い俺には隠密スキルもあるし戦闘なんてスキップし放題だ。


「えっ。お一人で向かうのですか~? リンネさんが言うのでしたらそれは構いませんけど」


 毎度のことながら大きな胸を揺らすのは、お馴染みのギルド受付テレジアさんだ。

 どどーんからのぺたーん。

 自分のものと見比べると、どこか落ち込んだ気分になってしまうが仕方ない。


 そういえば一人で入ると進むことができない、なんて話だったな。

 だからこそテレジアさんは通してくれたんだろうが、俺は普通に入れてしまった。

 もしや隠密効果か?

 よくわからないがよしとして、ダンジョンに入ってからは壁に沿って進んでいく。

 そのまま手を離さないようにいけば次の階にたどり着くはずだ。

 途中で魔物とニアミスするような形になり、肝を冷やす場面もあったが気づかれることはなかった。


 前に来たのがこの三層で猛毒草を求めにきたんだったな。

 少し前のことなのに懐かしくなり、思いだしているうちに四層目までやってきた。

 その途中途中に生えている薬草などを摘んでいると、見慣れないものを発見した。


『夢見の鎖/合成用アイテム』


 今わかるのはそれだけだが、鑑定レベルが上がった時に判明するかもしれないし一応回収しておこう。

 そこから先に進んだポイントに目的のものは生えていた。


『これなんでしょう、エルミ?』

『はい、相違ありません。それでは開始…………リンネさんの一日のポーション作成可能最大数が100に上昇しました』


 これでひとまずは需要を満たすことができそうだ。


 あとはどうだっていいんだが一応頼まれていたものをギルドに届けに行く。

 それは階層ごとに設置されている踏破の証であり、噓偽りではないことを証明するのに用いられているそうだ。


「おかえりなさい! それにしても本当にやってしまうなんて~⁉」

「むぐぐぐぐ」


 今俺は柔らかな肉の塊に包まれている。

 苦しいはずなのになんなんだこの多幸感は。

 少しくらい頭を左右させてもバレないか? いっとくか?

 なんてことを考えてるうちにテレジアさんは離れていった。ちくしょう!


「この先も調査にご協力お願いしますね~」


 そうしてギルドをあとにする。周囲の視線もあったしどこか冒険者してる感が出てしまった。

 まあ今後も依頼なんてもの受けるつもりはさらさらないけどな。


「君がリンネ君だね?」


 街を出ようとしていると後ろから俺を呼ぶ声が聞こえ振り返る。

 なんだろう。いかにも善人と言いたげな目鼻立ちの整った男が立ってるんだが気に食わない。


「人違いです」

「いいや、リリーのように可憐なポーションの君を見間違えるはずがない! 今少しいいだろうか?」

「よくないです」

「やはりリンネ君だったんだね!」


 しまった、ひっかかった。

 このテンションといい、絶対に面倒なことに巻き込まれる予感がする。


「イマ、イソイデルノデ」

「五分、いや二分でいいんだ!」

「ハヤク、カエラナイト、オナカヲスカセタオトウトガ、マッテル」

「そうか残念。ではまた会おう! 僕の名はフォスター、記憶に刻んでおいてくれたまえ!」


 なにが悲しくて男の名前なんて覚えなくちゃならないんだ。

 俺は過去最速の早足で街をあとにした。

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