閑話1
第9話 一方天界では
『おいこらなにビビってんだ。いい加減正体あらわしやがれ』
おそらく予想外のことが起こったのでしょう。突然アリシア様の体は大きく跳ねました。
それまでは調子よくステイだのなんだのあおり散らかしていたというのに。
「強制送還、強制送還、ぬうううんん強制送還んんぅ! ふっ、私にかかればこんなものです」
アリシア様は額の汗を拭う仕草をして、まるで一仕事終えたかのような顔をしています。
まったくこの女神様ときたらなにをしてるんでしょう。
お目付け役としては満足気な様子に声を掛けなければなりません。
「またですか? 独断で死者を追い返すような真似をして……」
「なにを言うのですキリカエストゥール。リンネさんにはまだまだ死なれては困るのですよ」
「ですからキリカで結構ですと何度も。ところで、
そう尋ねるとアリシア様はそれはもうにっこりと微笑んでウインクをします。
ああ、はい。
厄介なことが起こっているのは直感的にわかります。
「もしもリンネさんに危険が及ぶとします。ええ、ええもうしますよね? その瞬間即座に救助イベントが起こるようになっているのですよ」
「すみません、イベントとは一体?」
「平たく言えば出来事のことです。もっと詳しく言えばつまり」
おっと。変に話が長くなりそうなのでさえぎりましょう。
「しかしリンネさんを助けたあの二人はどのようにして? もしや土くれから生み出したなにかで?」
「まーさかぁ。本来あの方たちはリンネさんが今後出会っていく、いわば舞台への登場人物。単にその
そう言い放ち引き続き笑うアリシア様。
このお方、さらっととんでもないことをしでかしてるのですが。
「でもですね、初めはただ転生させたかっただけのように見えますが」
「あれはリンネさんでちょうど千人目の転生者だったからです。特別ボーナスもありますしね。あー、もしもし、聞いてます?」
「いえ、あきれ返ってるだけですのでお気にせず」
「今となってはそんなものどうだっていいのです。見てるだけというのもやっぱり退屈……ではなく心配なのでこの先もリンネさんと関わっていかなくては!」
言いながら女神はぴょんぴょんと跳ねます。
見る人が見れば可愛らしい仕草なんでしょうが、それに対して言うべきことがあります。
「他にも案件を抱えている中でさすがにこだわりすぎだと思うんです。本当にリンネさんの行く末を見守りたいだけなんですか?」
「それがまっとう。まっとうまっとう。まっとうオブまっとうが責務な女神の職務ですから!」
「本当に本当にそれだけです?」
言っている内容がわからないのは今更なのであきらめるとして。
ここからなぜか妙な間が空きます。
「ぎぎ、銀髪ストレートの小動物のような小柄な体。視線どころか体の向きすら合わせてくれない重度の人見知り。それでもって死にたがりなんて、一目ぼれかつどストライクすぎだし絶対に守ってあげたぁい‼」
天界じゅうにとどろく大声。
それどころか頬を染めてはぁはぁはぁと息荒く近づいてきます。
いえさすがに。さすがに……。
薄々感じてはいたけどダメなやつだこいつ。
「……一切聞かなかったことにさせてください」
アリシアにも困ったものです。
何度かこういうことはあったものの、ここまでの干渉は前代未聞。
今回も上への報告はしますが効果はあるのやら。
そして巻き込まれてしまった被害者リンネさん。残念ながらあなたはどうあっても死ぬことができません。
アリシアがこっそり付与したらしいいくつかのスキルを駆使してどうか次の人生を穏やかに送っていってください。
ボクはそう書き込んで日記帳を閉じました。
序~リンネはなにがなんでも死にたい~
おわり
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