十二話 掴んだのは誰だ
意識を取り戻し瞼を開けた。そこは賽の河原だった。体に異常がないか調べると右腕が生えていた。
「ここで生えても意味無いんだけどな」
「大敗した感想は何かある?」
背後から毒を吐く愛。
「別に。惜しくも無かったし、俺が自信過剰のバカだったってだけ」
反論することなくその毒を命は受け入れた。目の前を流れる三途の川へ歩き始める。
「川を渡るの?」
「ここに居座ってても意味無いしな」
早く消えてしまいたい。強い後悔から命はそんな事を考えていた。
「私があなたの心臓になる」
「やっぱそれが狙いだろ?」
愛の提案を知っていたかのように命は言った。続けて考察を口にする。
「永命に狙われた際、お前は本当に焦った表情してたよな。 でもさっき俺が戦う思考から助ける思考になった時、お前は表情一つ変えずに俺に毒を吐いた」
愛は眉一つ動かさず話を聞いていた。
「両方、命の危機なのにどうしてこうも態度が違うのかって思ってたんだ。永命との戦いは圧倒的な差で煽っても俺は三途の川を渡る。でもこの適との戦いはギリギリの勝負だった。だからもし負けて河原に来たら――適当に煽って契約させようとしてるんだろ?」
ビシッと言い切った。その話を聞いて愛はパチパチと拍手を始める。
「意外と勘が良いのね」
「お前はもう俺に構うな。千福を助けて逃げるんだ」
「そんなことどうでも良い。どうすれば契約してくれる?」
図々しく命の話を聞かず自分の事だけを口にする。それを聞いて命は真っ向から反対した。
「お前と手を組んだら俺は晴れて穢レ人になる。哲太さんはもう俺を見逃してくれない」
ジャブジャブと川を歩き始める。冷たい水が靴に沁み込んでくる。小学生の時に水溜りに足を入れた時の感覚と同じ。どこか懐かしい気持ちになった。
「だから何?」
「もう疲れたんだ」
話を全く聞かない愛に嫌気が差し、吐き捨てるように今の気持ちを語った。
「私の手を掴んだのはあなたよ? そこにどんな陰謀が隠されていようとも最後に選んだのはあなた」
「そもそもお前が俺の前に現れなければ起きなかった事だろ。なあ最後ぐらい喧嘩せずにスッキリ終わろうぜ」
清々しい思いで死にたい。だがそうさせてはくれない愛に声が大きくなる。
「嫌だ」
しかし愛は依然として我を通しまくる。
「なら聞かせろ。お前がそこまで俺に執着する理由は?」
「あなたを愛しているから。あなたは私の全てだから」
「は?」
予想の斜め上を行く回答に素っ頓狂な声が出てしまう。
「あなたを私は愛しているの。そしてあなたは私の全てに等しい存在なの」
「……」
こいつは狂っている。しかしふと思い出した。穢レ人相手だから意味が分からないのは仕方が無いか。あまりにも意味不明な言動を前に命はこれ以上その質問はしなかった。
「まあ信じてくれないのならそれで良いけど。なら最後に昔話を聞かない?」
長時間戸惑っている命を見て愛は恥ずかしそうに誤魔化す。
「聞いたらさっさと千福を連れて逃げるか?」
「勿論」
急に言う事を聞くようになった。愛に不信感を抱くも「なら聞かせてくれ」と川の中に入りながら聞き始めた。
愛は桜龍町に代々続いていた武士の一族桜龍家について話始めた。
桜龍家は大昔に龍と契約し、町にはびこる穢れを浄化をする為に二つの力を授けてもらった。
万物を超越した力を得られる桜龍の赤眼。
あらゆる病や怪我を治し、鉄の様に頑丈な体になる桜龍の印。
その二つの力は保有者が死亡すると子供へと引き継がれいき、長年桜龍町を穢れから守っていた。
ある年一人の少女が産まれた。しかしその少女は何も持たずして産まれ、すぐに捨てられた。
二人目が産まれた。名を千福と付けた。しかしその子は印しか授かれなかった。
三人目。名前は千華。その子は残りの赤眼を授かった。
「それって千福の話か?」
「そうよ」
昔話を中断して命は尋ねた。すると誤魔化さず肯定する愛。すぐに昔話は再開した。
赤眼と印が二つで一つ。印が無い肉体は赤眼の力には耐えられなかった。目を焼かれるような苦痛が毎日引きおこり千華はずっと病床に伏せていた。
印を持つ千福は圧倒的な力はないものの印のお陰で人々の役に立っていた。長い年月が経ち、千華の体は衰弱していった。
そして事件が起きた。千華は千福が出払っている事を確認した後、桜龍家の人間を全員刀で切り殺した。
家に帰るとむせかえるような血の臭い。その中央には千華がいた。やがて死闘に発展し、千華は千福によって殺された。
「それで何が言いたい?」
悲惨な結果で昔話が終わるも、何故そんな話を急に始めたのかその本題を掴めていない命は愛に尋ねた。
「勘が悪いわね。あの黒いマントの正体は間違いなく千華よ」
「っ!?」
「長かったわね。千華は今六道を渡って復讐の為に戦っている。穢レ人になっても赤眼が付いたままなのは驚いたけど」
「勝てるのか?」
「言ったでしょ? 万物を超越した力。印程度でどうにかなるものじゃない」
「……」
「千福を助けたいのなら契約をしましょう」
正直嘘だと信じたい。しかしもしその話が本当なら今動かなければ千福が死ぬ。関わりは血を分けて助けてくれた程度。会話をしたのは移動中と初対面の時だけ。それでも自分を助けてくれた。
心が折れかけていても、また誰かを殺してしまうかもという恐怖に囚われていても知らないフリで過ごす事だけは嫌だった。
「お前は怖く無いのか?」
「私はどんな強い敵と戦うよりもあなたを失う方が怖い」
「俺は後悔してる。あの人達を救えなかったことを。俺があの日お前の手を取ったからあの人達の未来が変わってしまったって」
死んでおくべきだった。そんな悪い考えが再び頭に浮かび始める。
「一つ言うのならあなたの人生が変わったのは適と出会った辺りからね。もうあの時点であなたは地獄の道に片足を突っ込んでたの」
「贖罪がしたいんでしょ?」
唐突に愛はそう言った。命は嘘は付けなかった。
「ああ」
「あなたが今できる一番の贖罪はただ開き直ってあの世に行く事じゃ無い」
黙って命は聞き入れる。
「とことん踏み入った地獄の道を進み続ける。弔いと共に戦い続ける。それがあなたに出来る贖罪」
体が震える。死ぬべきだと足が川を渡ろうとしてしまう。これ以上地獄の道を進めば辛いことが今以上に増える。きっと今日愛の手を掴んだことを一生後悔する。
「それでも俺は……歩き続けなきゃいけないんだ。あの日手を掴んだのは誰でも無い――俺だ」
踵を返し三途の川から戻ってくる。そして愛の前で止まりお願いをした。
「愛、俺の心臓になってくれ。適を殺して千福を守るぞ」
「勿論よ」
命が愛の手を握ると気を失う。その体を抱きしめて愛情をこめて伝えた。
「ずーとあなたをこれからも愛すわ」
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