第46話 変わらぬ朝と事件発生

「エクテス様、おはようございます」


 変わらぬ朝はやってきて、いつものとおり、明るいメーガンの声に目覚めのときを告げられる。


 ここへ来てからしばらくはちゃんと寝付けなかったくせに、今では気にせずぐっすり朝まで眠り続けている自分自身の図太さというか、順応性の高さに驚いているくらいだった。


「おはよう、エクテス」


 着替えが終わるころ、まるで見ていたんじゃないかと心配になるほど良いタイミングでルイがやってきて、これまた最高のタイミングで朝食が運ばれてくる。


 いつもと変わらぬ朝の光景だ。


「昨日、あちこちで美しい歌が聞こえてきたそうなんだ」


「え……」


 朝食をともにしながら、完璧な仕草でフォークとナイフを操るルイによってぽつりと漏らされた言葉に、思わずバターナイフを落としそうになった。


「マリア、何か知ってるかい?」


「いや、あたしは何も……何かあったのかい?」


 まさか、昨晩光の道を移動しているあのときのことを言われているのではないだろうな。ドキリとする。


 あたしはひとり、見えない道を歩いていると思っていたものの、本当は術によって導かれただけで現実世界の道を並行して歩いていたのではないかと心配になってくる。


 そうであるならば、あんなにも爆音で歌を歌っていたら大変な騒音問題に発展するだろう。


 音響設備も申し分なく、歌えば歌うだけ花も咲き誇り、本当に気持ちのいい空間だったため、ずいぶんハメを外しすぎてしまった。


「聞こえてきた者たちの話によると、耳を澄ませて音が鮮明にわかるようになり始めたころ、足元に花が少しずつ咲いて行ったそうだ。朝からその報告が立て続けに入っていて、今はジェームスが対応しているのだけど、原因がわからないんだ。その花が良いものなのか悪いものかさえ、今はわからなくて」


「うわ……」


 なんだか嫌な予感しかしない。


 いや、あたしのせいという確証はないけど、こういうときにトラブルを引き寄せると言うか、何か起こしてしまうのがあたしという人間なのだ。


 合いの手王子にもご足労を願って、大層な迷惑をかけているし、不安になってくる。


「ル、ルイ……あのさ……」


(ああ、結局こうなるのか)


 自身のふがいなさを嘆き、頭を抱えたくなるのをぐっとこらえ、ルイに本当のことを話すしかないのだと腹をくくる。


 勝手な行動をしたことを怒られるかと思いきや、すぐさま正直にことを告げると、どちらかというとルイは驚いた表情を浮かべ、少し考えているように見えた。


「マリア、君は歌を歌うと花を咲かせられるという能力を持っているのかい?」


「君も見たことあるだろう。持っているはずがない。一度だって舞台の上で花を咲かせたことなんてないよ」


「君が言っていた力を失うという前もか?」


「もちろん! そんな特殊能力は持ち合わせていない。力だって、もともとないに等しかったのだし」


 そこまできてしまうとただの歌い手ではなく、大道芸人になってしまう。


「アイリーンの力が加わると予期していない力をマリアも発することができるのだろうか」


「発揮したとしても、何にも役には立たないんだ。あの道の上ではほかに何もできないし、花を咲かせるくらいだったら戦闘能力にはなんにも足しにはならない」


 たとえ魔物がそこにいたって見えなければ応戦できないのだ。


「咲いたという花が悪いものでないといいのだけど」


 それだけが心配だった。


 たとえばもし悪いものだった場合、まだあたしのしわざと決まったわけではないけど、好意で力を貸してくれた白金色の天使にも第四王子にも迷惑をかけてしまうことになる。


 自分のやらかした過ちに、やっぱり頭を抱えたくなった。

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