第12話 違和感ばかりの王宮
「それにしても、大丈夫なのですか?」
大丈夫でないのなら即座に判断してここから放り出してもらっても構わない。
もうこれ以上余計な知識を入れられるのはお断りだし、巻き込まれるのはごめんだ。
「まぁ……兄上には、いつものように対応するよう伝えてあるから」
「それならいいですけど……」
どうも歯切れの悪い言葉尻に不穏な空気が流れる。
「あ、あの……わたくしが部外者というのが問題であれば、これより先は……」
「君の問題ではなく、兄に問題があってね」
女だというのがバレているようなのでそのことを気にすることなく過ごすことができるのは有り難い。できる限り丁寧にこの場から離脱させてもらおうと訴えかけてみるが、そうはいかないようだ。
むしろそんな問題のある王子だなんて、最も避けて通りたい道でしかないのだが。
「では、先に本題に入ろう。ヘイデン、結界に関してはどうなっている?」
あたしの意見などお構い無しに、ルイが本題に入ろうとするためぎょっとする。
「現在、我らが把握するすべての地域に結界が張り終えたという情報は入っています」
「そうか」
……ま、まてまてまて。
絶対に聞いてはいけなさそうな話題が繰り広げられ始め、落ち着かなくなってくる。
あたしのことをそっちのけで、守備の確認なのかそれぞれがそれぞれ、自由に近況報告を始めた。
こんなにも無駄に発色しているにも関わらずまったく興味が持てないどころか大変申し訳ないのだけど顔のいい男が嫌いすぎて、ルイ以外の弟殿下たちの名前がなかなか覚えられず、話し出す王子の顔を見比べて、えーっと……と彼らの名前を思い出そうと考えを巡らす。
彼らのやりとりを目で追い、次第に眩しいこの王子三兄弟のことは『
関係者以外をこの場に入れていないのは正解だ。この場所差あまりにも目の毒である。
三兄弟が三兄弟ともこんなにも瞬いているのであれば、長男である第一王子までも現れたのならどうなってしまうことやら……と、ぼんやり思考を巡らせて考えているうちに扉の向こうからノック音が聞こえた。
きた!ラスボスか!
などと無粋なことを思う前に入ってきたのは、明るく長い金色の髪を背に垂らし、透き通った白い肌に青い瞳の……どちらかといえばあたしよりも小柄なお姫さまと言われても過言ではないくらい麗しい出で立ちの少年がそこに立っていて、ルイたちの表情がゆるんだのがわかった。
この人こそが、肖像画やらなんやらで拝見したことがあったあたしの想像していた通りの第一王子その人だった。
「こちらへ」
彼はあたりを見渡し、たった一言そう言うと、背を向け、スタスタと歩きだす。
何が起こったかわからないまま合いの手王子がその後ろに続き、腹黒極悪王子も続く。
「はい」
「ん?」
ルイにハンカチを手渡され、首をひねる。
「つらくなったらそれで目を隠すといい」
「え?」
つらく……なる……だと?
「今から兄上のところへ伺う。一応君もいるから、配慮はしてるつもりなのだろうけど」
「え……いったい、どういう……」
第一王子と接するだけで一体何が起こるとうのか。もはや同性愛者で偽装結婚をしているというくらいならもう驚かないのに。
おかしなこの王家にはまだまだ隠された謎があるというのだろうか。
それならとんだびっくり箱でしかない。
「先ほど見たか限りでは、そんなふうには見えなかったが……」
確かに他の王子たちより背も低く、髪色も目の色も違い、印象は違っていたが、それ以外に変わったところはなかったように思う。
交流するためにわざわざ王子たちが場所を変えてまでも挑む必要とは、何なのだろうか。
「あれは兄上ではないんだ」
「えっ……」
視線を外すことなくルイが囁いた言葉に、思わず取り乱してしまいそうになる。
「で、でもあのお方は……」
我々国民の知る第一王子はあの人のはずだ。それなのに……
「影武者なんだ。兄上は五年以上前から人前にはでていない」
「なっ……」
しっ、と声を出すなとジェスチャーをするため、前に続く背中とルイを見比べる。
先を行く王子たちも我々の声は聞こえているはずなのだろうけど全く気にする様子もないし。
「それに、あれが兄上のお相手なんだ」
「はい?」
あたしは結構、いろんなことを体験して苦労もしてきたからある程度のことは動じないつもりだ。
それでもここは、次から次へと衝撃的な事実が発覚して休むことさえ許してくれない。
「……面白いじゃないか」
世の中にはまだまだ知らない世界があるのは知っている。
予期せぬ出来事だってこれからもいろいろとあるだろう。
目立つことなく穏やかに平凡に生きていきたいと願うのは本当の気持ちではあるが、好奇心を捨てたわけではない。
乗りかかった船だ。
それならばとことん楽しむしかない。
結局、あたしはそのあと初めて体感する衝撃に腰を抜かし、屈辱的な気分を味わうのだけど、このときはまだそんなこと、知る由もなかった。
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