隙自語勇者は黙っちゃいられない 〜スキル発動「あの頃の俺がさ……」〜
フョドロワ
第1話 うるさいってだけで召喚された男の話
「なあ、ちょっとだけでいいから聞いてくれってば!」
俺、語部ハル。高校二年生。趣味は雑談、特技は自分語り。
まあ、そういうやつって大抵、クラスじゃ浮いてるよな。
「でさ、小学校のとき初めて男子だけでキャンプ行ったときの話なんだけど──」
「……またかよ」
「昼休みくらい静かにできないの?」
そんな視線にもめげず、俺は語る。なぜなら“語らずにはいられない病”だからだ。
興味の有無? そんなもん関係ない。語ること、それ自体が目的なんだから!
「で、その夜さ、マジで怖い話してたら本当に……」
──ブンッ。
突然、風が吹いた。いや、風っていうか、空間が揺れたような感覚。
「……あれ?」
次の瞬間、視界が真っ白になる。
え、ちょ、え、待って!? 今の話、オチまでいってないんだけど!?
──気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。
「…………」
広がる無音。足元には何もなく、ただ白い光がぼんやりと広がっている。
夢? VR? ……いや、どっちでもなさそう。
「やあ、語る者よ」
頭上から声が降ってきた。
「え、誰!? どこ!?」
「私はこの世界を司る存在。いわゆる神様、というやつだ」
出た! なろうテンプレ召喚神!
「……はあ!? 何してんすか急に! 俺まだ、教室で語ってただけなんですけど!? てか今の話、良かったろ!? 最高潮だったよな!? ねえ!!」
「うるさい。静かにしなさい」
「……すみません」
どうやらこの空間では、俺より強い存在がいるらしい。そりゃそうだ、神様だもん。
「君をこの世界に召喚した理由はひとつ。“語り”の力を持つ者が、必要だったのだ」
「語り……?」
「この世界には“言霊”と呼ばれる古代魔法があった。しかし人々は語らなくなった。祈らなくなった。言葉の力が失われ、そして──沈黙の魔王が蘇った」
魔王!? 急展開すぎるぞ神様!
「このままでは、世界は静寂に飲まれてしまう。だが、君には語る力がある。誰も求めていなくても語り続けるその執念──まさに最後の語り部。勇者にふさわしい」
「褒められてる気がしないんだけど!?」
「君には《自分語り》というスキルを授ける。語れば力が発動する。世界を救いたまえ」
「いやいやいや!! 勝手に話進めないで!? 俺、心の準備とか──」
「それでは──いってらっしゃい」
「いやマジで待って、せめてスキルの説明書とか──」
ドゴォォン!
そんな音とともに、俺の足元が抜け落ちる。
真っ逆さまに落ちながら、俺は叫んだ。
「うわあああああ!! 俺の話、誰か聞いてくれぇぇぇぇぇ!!」
……そして。
──ドサッ!
草の上に落ちた。衝撃は意外と少ない。チュートリアル判定か。
「っ……いったぁ……」
見上げると、雲ひとつない青空。
見渡す限りの草原、ふわふわ浮いてる謎の石──うん、現代じゃないなこれ。
「……は? ここ、どこ???」
完全に、異世界だった。
「おいおいおいおい、こっちはまだ“昼休みにありがちな怖い話その1”なんだよ!? しかも今からクライマックスだったのに!」
「その話は別に、後で語ってもらえばよい」
「いや後じゃダメなんすよ! 話ってのは“今このタイミング”が大事なんだって! 文脈と流れと俺のノリが! 全部繋がって今、ベストトークが組まれてたのに!」
「……やかましい」
神様が頭を抱える仕草をして見せた。
見えないけど、なんか“静かにしろオーラ”を感じる。こっちも空気読まなきゃか……。
「ま、まあ……要するに、俺がこの世界を救うの? マジで? 語って?」
「そうだ。語ることで力を生み出し、語ることで人を動かす。語ることで、魔を砕くのだ」
「詩的に言っても無理があるよ!? 俺の語りって、“いや誰も聞いてないけどね”ってやつだよ!?」
「だからこそ選ばれたのだ」
神様はしみじみと語る。
「この世界にはもう、“語ろうとする者”すらいなくなってしまった。自分のことを話し、自分の過去をさらけ出せる者など、ほとんどいない。そんな時代に……」
「……いやでも俺、ただのおしゃべりで、人付き合いとか苦手だし……」
「いいや、それでいい」
「断言された!?」
「語るとは、己をさらすこと。己をさらせる者こそ、真に強き者なのだ」
「いやでもそれ俺が勝手に喋ってるだけで──」
「よって君を“隙自語勇者”に任命する」
「聞いてなぁぁい!!」
その瞬間、天からキラキラしたエフェクトと共に“勇者認定ウィンドウ”が出現した。
そしてその下に──
【スキル:自分語り】
【ランク:不明】
【効果:語ることで何かが起きる】
【※補足:本気で語ると、たまにすごいことが起きるかもしれない】
「ざっくりしすぎィィ!!」
「それでは──語れ。そして救え。おしゃべりな君に、世界の命運を託す」
「ほんとノリ軽すぎるぞここの神!! いや俺もまあ、ノリで生きてるけども!!」
「さらばだ、語る者よ」
「うわ待ってホントに落ち──あああああああああ!!」
──シュバァンッ!!
落ちた。
本当に落とされた。
足元の空間が“ピッ”て感じで消えて、マジで下に抜け落ちた。
叫びながら、俺は思った。
(いやでも、マジでなんなんだこの展開!? 俺、語ってただけなんだけど!?)
目の前に広がるのは──雲一つない快晴の空。
そして、俺の“黙っちゃいられない冒険”は、ここから始まる。
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