アイドルはかく語りき
@makaz
第1話 ヨミの語り
ヨミがマイクを持った。
「今日、最後のステージです。すぐに曲に行きたいところですが、一言私から」
間を置き観客席を見回す。全ての観客が静まるのを確認して再び口を開いた。
「私たちは見られることにもっと自覚的でないといけないと思いました。消費されたくないとか性的な目で見られたくないとか思うのは本音ですし理想ですが、古今東西見られる職業である以上しかたない部分はあり、見られる以上消費されるのも事実です。しかし、私たちはそうやって見られることで、観測されることで、初めてアイドルとして完成するのです。誰にも見てもらえないと存在しないのと一緒なのです。シュレディンガーの猫のようですわね。ふふ。まぁそれはいいとして。誹謗中傷があることも覚悟していました。しかし、甘かったかもしれません。悪意に実際に触れてみて私たちの存在の重さに気付きました。こうやって、こんな私たちがアイドルをすること、表に出ること、それは誰かに勇気を与えることと思っていたけど、誰かにとっては不快なのかもしれないのです。まるで刃を突きつけられたようでした。だから私たちのしていることは傲慢な行いなのだという思いに至りました。自尊心を満たすためだけの行為なのかもしれません。障害を見せつけて、偽善だ、売名だと罵られました。でもそれは当然なのかもしれません。人は嫌なものは見たくない。いやな話はしたくない。できればいやなことから目を背け、気付かずに生きていきたい。私もこうなる前はそうでした」
義眼であり、髪で隠れる左眼を義手で覆う。いろいろな想いが交錯する。
「開き直るつもりはありませんが、それでも私たちは、こうやって人前で歌います。音楽が好きなのです。そして部屋に閉じこもって自己完結で満足はできないのです。やはり、聴いてくれる人、そうあなたたちファンがいてこそ私たちは存在できるのです。本当にありがとう。悲劇が起こり、警備も物々しく怖い思いでここにいる人もいると思います。私も、怖いです。もしもう一度起きたならば、もし私に刃を突き刺されたらと思うと。それでも、音楽を奏でることを止めたくないし、それしか私たちにはできません。消費されようと一瞬の輝きであろうと何も残らなくても、聴いた今この一瞬だけはまぎれもない真実だと思います。私は誰かに褒めてもらいたい。拍手をしてほしい。卑小で欲深い人間なのです。それを知っておいてください。その上でそれでも応援してくれるならば、私は約束します。私の最高を、私たちの最高を、その瞬間瞬間にお見せし、お聴かせすることを誓います」
ヨミの所属する神楽坂ドールズは、障害を持つ三人のアイドルユニットだ。
ヨミは事故で片眼と片腕を失った。義眼義手のアイドル。
ひとりは暴力で下半身がままならない者。
そしてこれは私は絶対に障害ではないと思うが、かつて国に障害と言われたことがある者。
障害があろうと、差別のない社会にしたい。
そんなだいそれたことを想い、神楽坂ドールズは結成した。
アーティストでという話もあったが、より多くの夢と笑いを届けられるのは、私が受け取ったように、アイドルという形しかない。
笑顔にするために歌い踊りパフォーマンスをする。握手で喜んでくれるならする、近くに存在すると思ってもらえたら嬉しい。
ハンデアイドルと名乗っての活動は批判にもさらされた。キャッチーではあるが、露悪的だとか売名だ偽善だと騒がれた。
それでもそんな私たちを受け入れて認めて応援してくれる人たちが、今も目の前にいる。ここに来られなかった人もたくさんいる。
勇気を与えたいとかそんなそれこそ偽善めいたもの言いはしない。
ただ私たちは、諦めないだけ。
諦めない姿を晒すだけ。
障害でも特性でも、それが諦めの理由にしたくない。諦めさせる社会でいいわけがない。
誰にでも開かれた世界であってほしい。
諦めなければ出来るわけではないが、きっと自分が納得できると思う。そう、私は諦めずにやれるだけやって納得したかったのだから。
歌にしがみつきたい、アイドルになれるならなりたいし、あわよくばそれを聴いてくれる応援してくれる人に出逢いたい。
「強欲であれ。全てのやりたいことをやれ」
大御所歌手に言われた言葉が私の座右の銘のようになっている。
全部やる。強欲に生きる。
私は、私を生きる。
誰が為に? 我の為に。
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