第37話
雨は地面に無数の輪を作る。それでも一時的に小康状態になったのを見計らって、凪子も自宅へ戻るという。
「私は帰らなければいけないけど、あなたたちは大丈夫?」
夏月は、下駄箱に隣接した傘立てを指す。
「いざとなったら、拝借してくわ。夏休みで、誰からも咎めないだろうし」
「ふふ、夏月らしいわね。……ああ、美海の活躍、もっと楽しみたかったのに」
「どのみち負けてたのよ。明らかに実力不足だったもの。ありがとう」
凪子は夏月や美海と抱き合ってから、日傘を雨傘代わりにして駆けていった。じきに後ろ姿が見えなくなり、玄関先には夏月と美海の二人だけが取り残された。雨脚は再び強まり、彼方では雷鳴が轟く。
「美海、残念だったわね。でも、きっと次があるわ」
ラケットを傘立てに預けた美海は無言だった。雨音が耳にざわめく。
「ねえ、美海。……美海?」
美海は突然頽れて肩を震わせた。泣いているのだ。いつも明るくて笑顔を絶やさない彼女が、声を押し殺して泣いていた。夏月は戸惑いながら傍らにしゃがみ、美海の肩を優しく抱く。
「ねえ美海、よく頑張ったじゃない。そんなに自分を責めないで」
少し時間を置いて、美海は膝頭に顔を沈めたまま頸を横に振った。雷鳴が更に近い場所で耳を突く。
「……違う、違うのよ」
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