第97話 睡眠薬と逆レイプ

――ピンポーン


穂乃果との約束通り九時に彼女の家を訪れた。何処かに出掛けるだろうと思い、普段以上に気合の入った服装である。


穂乃果の家に行くという事で早朝服を選んでいた隼人であったが、中々決まらなかった。その時に不機嫌ながらも美沙がアドバイスしてくれたテーラードジャケットを羽織っている。これなら、どこへ行っても恥ずかしくないだろうと。


「あれ、出てこないな?もう一度押してみるか……」


「は~い、ごめんなさいね、隼人君」


「茉奈さん?」


「ふふ、穂乃果ちゃんじゃなくてガッカリしたかしら?あの娘は、今お部屋で準備中よ♪」


何をとは聞くことが出来なかった。それを聞いても正直に答えてくれるような人物でもないし、はぐらかす気満々といった雰囲気を感じさせていたからだ。


「了解です……」


「隼人君ったら子羊ちゃんみたいに怯えないのっ!そんな取って食おうと思っていないもの」


「あ、いえ、そうですよね!」


(貴女の娘さんに食べられそうだとは言えない……)


「ふふ、さぁ入って。コーヒーでも淹れてあげる。ブラックでいいかしら?」


「お構いなく」


「もう、お義母さんに仕事させなさいっ!」


「……じゃあ、コーヒーお願いします」


「ふふ、了解よ♪」


見慣れた玄関に案内されて隼人はリビングへと連れて行かれる。そして茉奈の押しに負けてコーヒーを頂くことにしたので、ソファーに座り待っていた。彼女はニコニコと楽しそうにキッチンでコーヒー豆を挽いている。

大食漢な穂乃果の母親ということもあり料理上手であり、コーヒー豆から淹れるのも彼女なりの拘りなのだろう。


「そういえば、隼人君って結婚でもしたのかしら?」


――ギクッ!


ニコニコと穏やかな雰囲気から唐突に心臓を矢で撃たれたかのような衝撃であった。

それでも何時かは訊かれるだろうと思っていたが、不意を突かれると驚くものだ。それでも動揺を隠すようにして口を開く。


「えぇ、俺には勿体ないくらい素晴らしい相手ですけどね」


「そうなのね~私としては穂乃果ちゃんと結ばれて欲しかったけれどね」


「……すみません」


「別に攻めているわけじゃないの。それでも、あの娘とは今後も仲良くしてあげて欲しいわ」


「そうですね……」


「ふふ、さぁコーヒー出来たわよ!熱いうちに飲んでね」


「ありがとうございます。では、いただきます。ん~いい香りだ」


茉奈から攻められることを覚悟していたが、穂乃果同様特別怒ったりすることは無かった。娘から説明があったのだろうが、それでも母親として娘の恋心が成就しなかったら怒りの一つでも湧くものだと思っていた。隼人としては予想を裏切られた気分であった。


――ゴクッ


そして穏やかな雰囲気を醸し出している茉奈に安心を覚えて、隼人は彼女のコーヒーを美味しそうに飲んだ。


「ん~美味しい……。やっぱり豆で挽くのとインスタントでは全然違いますね!僕も今後は豆からコーヒーを淹れてみようと……あれ?」


「……ふふ、案外早かったわね。もしかして、緊張しすぎてあまり眠れていなかったのかしらね?なら、ゆっくり眠っていいわよ」


「こ、これは……もしかして……」


隼人は薄れ行く意識の中で、茉奈がコーヒーに入れたものが睡眠薬であることに気付く。そして彼女がニコニコと楽しそうに笑っている表情が、今は恐ろしく感じた。それでも彼女とは一年弱付き合いあるが、こんなことをする人物ではない。何か理由があるのかと考えるが思考力が落ちているため、考えが纏まらない。


「ごめんなさいね、コーヒーに睡眠薬を入れたのよ。それと……隼人君は何故と思っているだろうから先に答えを言っておくわね。これは……ゲームの準備なのよ」


「げぇー…む……?」


「ふふ、そうよ。隼人君が起きたら準備は整っているわ。楽しんでもらえると嬉しいわ!さぁ、今はゆっくりお眠りなさい」


「う、うぅ……すぅすぅ」


「ふふ、眠ったわね。穂乃果ちゃんいいわよ!」


茉奈は大きな声でリビングの外にいる穂乃果に聞こえるように声を掛ける。

そしてガチャリと扉を開けて、蕩けた表情でうっとりと隼人を見つめながら彼女はゆっくり近づく。


「先輩もうお眠りですかぁ~?なら、私が悪戯しちゃいますよ~」


ソファーに横たわって眠っている隼人へ跨る。そして茉奈はカメラを手に持って彼らを撮影する。


「穂乃果ちゃんこっちは準備オーケーよ♪」


「ママ手伝ってくれてありがと♪」


「ふふ、穂乃果ちゃんからのお願いなんて初めてだもの。何でも叶えてあげたくなっちゃうもの」


「ふふっ、さてと……先輩、いつも以上に服選んでくれたんですね。デートするつもりだったんでしょうけど残念ハズレです♪」


穂乃果は隼人の服を手早く脱がして、全裸にしていく。そして彼女が着ている制服も同様にゆっくり脱いでいく。まるでカメラに見せつけるようにゆっくりとであった。そして、二人が裸になってすることと言えば一つであった。


「じゃあ、まずは既成事実作っちゃいますね~」


穂乃果は眠った隼人と体を重ねる。それは睡眠薬が切れる寸前まで行われていた。





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