第33話 いい思い出と疑念


「いやぁ~美味しかったね」


「そうだね。でも、全部食べられなかったよ。ごめんね、私の分まで食べさせちゃって……」


「え、別に大丈夫だよ。それに甘い物は女の子にとって別腹だからね♪」


(嘘だ。この前一緒に寿司を食べに行った時、三十皿はペロリと食べたこと覚えているぞ……)


「せんぱ~い、何考えているんですか~?」


「何も……」


「ならいいんです♪」


もう視線を合わせなくても穂乃果は隼人が良からぬことを考えていると察するまでに至っていた。


「長瀬さん、もうこれで終わりだよね?」


「あぁ、流石にな。それに俺の財布がちょっと限界だからさ……」


「あ、ごめんなさい。私のせいで……」


「いいんだ、美沙…。それより今日は楽しめたか?」


美沙は目を瞑り、今日の出来事を振り返っていた。

沢山の初めての経験が出来たことへの感謝しかなかった。


「うん。人生で一番楽しめた」


「なんだそれ、大袈裟だな。でも良かったよ。さて、帰るか!穂乃果も気を付けて帰るんだぞ~」


名残惜しそうな美沙は穏やかに微笑んでいた。

満更嘘でもなさそうな雰囲気を出している美沙が気がかりだった。


「え~もう帰るんですか~?ちょっと待ってくださいよ!最後に写真撮りたいです!」


「写真?」


「はい。だって美沙ちゃん、こんなに可愛いのに撮らないなんて人類の損失じゃないですか~」


「損失ねぇ……穂乃果と一緒に写真撮ってやってくれないか?」


「え、いいけど……。ど、どうすればいいのかな……」


「お、その様子だと慣れていないのかな?ここは私のリードに任せてね♪」


穂乃果は美沙の横に顔を近づけた。美沙は眉を一瞬上げたが直ぐに落ち着きニコリと微笑みながらカメラを見る。

器用にスマホの内カメラで写真を数枚撮った。


「お~美沙ちゃん可愛い♪もっと撮りたくなる……」


「せんぱ~い、何枚か撮ってくれませんかぁ?」


「はいはい」


手渡されたスマホで指示された通りの角度で様々なポーズをする二人の写真を撮影した。


****


美沙との写真を撮り終えて満足そうな穂乃果と別れた隼人たちは、電車に乗っていた。

流石に都内とはいえ土曜日のため普段よりはガラガラであり席にも座れた。

美沙は何か言いたげな表情で何度も隼人の方へとチラチラと様子を伺うように見上げてきた。

無論見られていることを分かってはいるが、どう対応すればいいのかコミュ力に乏しい隼人には分からなかった。


そして無言のまま二人は駅を出た。

このまま家に着くまでお互い無言が続くのだろうと考えていると、隣を歩いていた美沙が急に立ち止まった。


「長瀬さん、今日はありがとうございました」


「別に気にするな……」


「……それでも大学生の貴方に無理をさせていた事実は変わりません」


「……ハァ、気づいていたか」


美沙は眉を下して申し訳なさそうな表情をしながらも真っすぐ隼人の目を見ていた。そして口調も確信持っており、言い訳をすることすら出来なかった。


観念したように溜息を吐いてから隼人は口を開いた。


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