第26話

 さーて、誘拐役を撃退してダンジョンを出たのはいいがこれからどうしよう。


 モンスターを天使の力で異形化させたのはおそらく騒ぎを起こしてその間に私を攫う計画だったのだろう。


 それと星月公司ほどの大企業が本命の作戦メインプランが頓挫した時の保険サブプランを用意していないとは思えない。


 クローン使徒ちゃんズの襲撃ぐらいは覚悟しておいていいだろう。


 しかしまずは残ってる敵の対処からか。少なくとも仮設キャンプには攫ったターゲットを外まで連れ出す手引き役もいるはず。


 とりあえずダンジョンを出た際、真っ先に対応しようとした人間は不意打ちで拘束。


「『亜人会所属のCランクシーカー、青葉リョウヘイ。金遣いが荒く借金を繰り返していたが、最近になって急に全額返済した模様。金の出処は不明。外部から金を受け取ったと思われ今回の内通者の一人である可能性大』――統括機構による調査ではそうなっていますが、何か釈明は?」

「くそったれ――ッ!!」


 事前に読み込んでいたシオンから受け取った統括機構の調査結果を周囲にも聞こえるよう読み上げると、そいつはスライムタマの拘束を振り払って逃走を図る。犬系の獣人だけあって走るのが速い速い。まあ無駄なんだけど。


 最初は何事だと不思議がっていた他の人たちも、彼が何かしらの犯罪に加担していたということを理解して追いかけようとするが私が止めた。


「タマ、発信機は付けた? そう、いい子ね」


 あのような小物に敵も重要な情報は与えていないだろう。だが少なくとも合流地点は知っているはずだ。泳がせておけば、あとはうちの娘たちが良い感じに処理してくれるだろう。


「追跡はこちらに任せてもらえますか? 教官方は学生の安全の確保、亜人会は外部のシーカーを一か所に集めておいて欲しいのですが」

「それはいいが、まず何が起こっているのか教えてくれないか?」

「それもそうですね」


 ダンジョン内に人間の手が加わったモンスターが存在すること。

 自由解放戦線を名乗るテロリストからの襲撃を受けたこと。

 そしてミカゲがダンジョンの攻略に向かったことを伝えた。


 ダンジョンの攻略については工藤教官と同じく、賛成はあっても反対はなかった。ダンジョンの攻略が遅れれば最悪スタンピードが起こるのだ。改造モンスターという不確定要素が見つかった時点で攻略は最優先となる。


『モルゲン、天使は見つかった?』

『申し訳ありません。怪しい人間は幾人か確認しましたが本命の天使は所在どころか存在の有無すら掴めておりません』

『そう、なら周辺の調査は打ち切る。一匹、ネズミを泳がせたから誰か回して、残りはこちらに』


 モルゲンたちには悪いが、最初から特攻兵器天使が見つかるとは思っていなかった。事が起こる前に見つかればラッキー程度だ。


 リリアがエリーゼを抱えて海を渡ってきたように。最悪、大陸から直接飛んで来るというのも考えられる。


 原作であれば自由解放戦線のBランクシーカーと戦うだけのイベントのはずだったのに、どこぞの誰かさんのせいでとんだ難易度のイベントになってしまったものだ。


 まあ今更文句を垂れたところで、か。


 それに本来であれば亜人会そのものが乗っ取られて、敵地の中だれが敵かもわからず疑心暗鬼な状況に陥っていたはずなのだ。


 それに比べれば天使の一体や二体、わかりやすく敵とわかる相手のほうがずっと気楽であろう。


「ミナト、統括機構の衛星が欧州から飛翔する発光体を確認したそうです」


 フレイから連絡が来たと思ったらピンポイントで天使らしきモノの目撃情報だった。本気で海を渡ってくるつもりなのか。それも欧州から? 後で自分たちとは関係ないと言い張るつもりか。


 あの日、【魔王】と【救世者】が交戦した後に【勇者】が現れて戦闘は終わった。 客観的に見れば欧州と日本の統括機構が対立したようにも見える。星月公司はこちらが協力関係にあると知らない? それとも協力関係にあったとしてもこの一件で仲違いさせようとしているのか……。


 発射地点が欧州で、遺体が残るかは不明だが犯行は欧州系の少女。情報共有が不十分であれば不和の種を撒くぐらいはできたかもしれないが、事前に天使化とクローンの話はしてあるので星月公司以上の疑いは持たれまい。


「こうなることはわかってたけどまさか本当に特攻兵器として運用するなんてね」

「日本統括機構はミサイルとしてこれを撃墜するつもりのようですよ?」

「むりむり。最低でもAランク、下手したらSランクに匹敵するかもしれない自律兵器だよ? 統括機構にはこっちで対応するから手を出すなって伝えておいて」

「救いますか」

「可愛い女の子は見捨てない信条なんだ。フレイはどうする?」

「それなんですが、こっちに来る気がするんですよね」

「勇者の≪直感≫?」

「ええ、なのでわたしは手を貸せないと思ってください」


 勇者と魔王、それぞれに一人ずつぶつける気か。


 影武者リトンには気づいてなさそうだが、エリーゼに仕込んだ遠隔起動装置が解除されていることはバレてそうだな。


「りょーかい。でもだからってすぐに殺すのは無しだよ? 彼女らも“被害者”なんだから、間に合うようなら救ってあげて」

「わかってますよ。勇者の看板は伊達じゃありませんから」


 勇者には悪いけどあっちは一人で対応してもらう。


『ふむ、ようやくこの日が来たのじゃ』


 この日?


『フフフフッ、待ちに待った待望の新モードよ!』


 あ、これやべえやつだわ。

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