第42話 よかった~アドレア視点~
「レイリス、僕のせいでごめんね。すぐに怪我を治してあげるからね」
王宮の一室に侵入したところで、すぐにレイリスの治療を行おうとした時だった。
「お待ちください、治癒魔法を使うのは、あまりにも体に負担が大きすぎます。今のレイリス嬢は、肉体的なケガだけでなく、魔力量も低下しております。そんな状態での治癒魔法は危険です」
必死に止めに入る魔術師。ケガだけでなく、魔力量も低下しているとは。
「それなら尚更、すぐに治療を行わないと。僕の体など、どうでもいい!レイリスが元気になってくれるのなら本望だ」
レイリス、君の言う通り、約束を守れなくてごめんね。せめてこれ以上君が痛い思いや苦しい思いをしない様に、今僕に出来る事をするから。
そんな思いで、魔力を一気にレイリスに向かって放つ。その瞬間、体がちぎれる様な激痛が走る。こんな痛み、大したことはない。レイリスの痛みに比べれば!
「坊ちゃま、おやめください。あなた様のお体が危険です。もう怪我も治りましたし、魔力量もある程度回復をしております」
「いいや…まだだ…まだ完ぺきではない…」
僕にはわかる。もっとレイリスが僕の魔力を欲しがっている事を。レイリス、僕の魔力、好きなだけ持って行っていいよ。だからどうか、元気になって欲しい。
その時だった。
急に激痛から解放されたのだ。そして
「レア?あら?私、一体どうしたのだったかしら?」
パチリと目を開けたレイリスが、キョロキョロと辺りを見渡している。よかった、元気になってくれて…
ただ僕は力を使いすぎて、フラフラだ。その場に倒れ込んでしまった。
「坊ちゃま」
「ちょっと、レア。大丈夫?あら?あの男に付けられた傷がきれいになっているわ。それに酷い頭痛も落ち着いているし。一体どうなっているの?」
よかった、レイリスの痛みは綺麗さっぱり取れたのだな。本当によかった。
「レイリス嬢、体調が戻られてよかったです。実はレイリス様は魔力を持っておりまして。それが魔力を無力にするリングのせいで、魔力不足に陥っていたのです。同じく魔力持ちの坊ちゃまが、命がけでレイリス様に魔力を注ぎ込み、怪我も治してくださいましたのでご安心を」
「余計な事をいわないでくれ…レイリス、僕の事は気に…」
「あなた、もしかして魔術師?それよりも、今言ったことは本当?私が魔力持ちですって?そんな事って、あるの?それじゃあ私、魔法が使えるの?」
どうやら魔法の方に食いついたレイリス。彼女らしいと言えば彼女らしいな。
「はい、レイリス嬢は、幼い頃から無意識に魔力を使いこなせていた様で。それで恐ろしく強かったのです。さすがに魔法使いには、生身の人間では勝てませんので」
「なるほど。そうか、私、魔法が使えるのね。凄いわ。ちょっと待って、レアも魔法が使えると言っていたわよね。それじゃあ私がレアに勝てなかった理由は、レアも魔法が使えたせいなの?」
「そうですね。魔力持ち同士の場合、魔力量の多さや普段の実力の差で勝敗が決まりますので。坊ちゃまは普段から体を鍛えておりましたし、魔力のお勉強や訓練も受けておりましたから」
「なるほど、それじゃあ私も訓練を受ければ、もっともっと魔法が上手く使える様になるという事ね。あなた、魔術師よね。私に魔法を教えてちょうだい」
目を輝かせて魔術師に詰め寄るレイリス。なんだか複雑な気持ちだが、それでもレイリスが嬉しそうで僕も嬉しい。
2人の姿を微笑ましく見ていると、急にレイリスがクルリとこちらを向いたのだ。
「あなた、私の為に魔力を使ったのよね。また勝手な事をして。私は別に魔力を使ってもらわなくても平気だったわ。それに助けに来るのも遅いし。でも…ありがとう。あなたのお陰で、目覚めた時痛い思いをしなかったから、助けに来るのが遅かったことは水に流してあげるわ」
そう言ってほほ笑んだレイリス。そして、そっと僕に抱き着いて来たのだ。レイリスから温かい何かが流れ込んでくる。もしかしてこれは!
「レイリス、ダメだ!僕に魔力を提供したら。せっかく痛みから解放されたのに、また痛みに襲われるだろう?」
すっとレイリスを引き離した。あんな体を引き裂かれる様な痛み、レイリスには味わってほしくない。そう思ったのだが…
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