第3話 そこまで言うなら参加しましょう

「そうか…それじゃあ、我が伯爵家がサフィーロン公爵家に目を付けられてしまってもよいのだな…最悪、あらぬ罪を着せられ、断罪させられることもあるかもしれない。我が家が取り潰されたら、領地も取り上げられてしまう。そうなればレイリス、お前にも汗水たらして働いてもらわなければいけなくなるかもしれない。もちろん、ぐうたらした生活ともおさらばだ」


 お父様が真剣な表情をして脅して来る。


「たとえ伯爵家が取り潰されたとしても、私はうまく生きていきますからご安心を。そうそう、昔暇つぶしでつくった悪党の手下たちがおりますので、あいつらを使って悠々自適に暮らしますわ」


 一時期、暇つぶしで王都の街に出ていた時があった。その時、悪さばかりしていた悪党どもを成敗したことがある。なぜか私に懐いた悪党どもは、今では皆、真面目に働いている。


 あいつらを使えば、私は今まで通り、悠々自適な生活が送れるだろう。


「暇つぶしで悪党を手下にしただと?お前はどこまで恐ろしい事をしているのだ?本当にレイリスは…」


 再びお父様が頭を抱えている。


「分かった。そこまで言うなら、参加しなくてもいい。あぁ…レイリスはあんな美味しい菓子にありつけるチャンスを、みすみす逃すだなんて…愚かな娘だ」


 ん?あんな美味しい菓子ですって?私の目がきらりと光った。


「お父様、美味しいお菓子とは、どういうことですか?」


「レイリスは知らないのかい?サフィーロン公爵家と言えば、この世のものとは思えない程美味しい菓子が出るのだよ。口の中に入れた瞬間、溶けてしまう様なフワフワなお菓子で。私も一度食べたが、あんなお菓子、生まれて初めてだった。どうやら他国で勉強を積んだ料理長オリジナルレシピの様で、公爵家でしかありつけないらしい」


 お父様がうっとりとした顔をしている。なんて気持ちの悪い顔をしているのかしら?て、お父様の顔が気持ち悪い事なんてどうでもいいわ。


 そんな美味しいお菓子があるだなんて…


「お菓子だけじゃないぞ。公爵家の料理は、王宮にも負けない程美味しいのだよ。珍しい食材をふんだんに使った絶品の料理たち。あの料理を目当てに夜会に参加する貴族がいるくらい、公爵家の料理は美味しいのだよ。でも、レイリスには関係ない話だな」


 何が関係ない話ですって?私は食べる事に目がない事を、誰よりも知っているくせに。でも、夜会に行かせるための罠かもしれないわ。


 お父様ならやりかねない。


 それでも…


 美味しいお料理に絶品のお菓子たち。私の頭の中で、料理と面倒な気持ちが天秤にかけられる。激しく揺れ動く天秤だが、料理とお菓子たちが乗った天秤が一気に傾いた。


 よし!決まりだ。



「分かりましたわ、そこまで言うのでしたら、夜会に参加しましょう」


「そうか、さすがレイリスだ。それじゃあ、頼んだよ」


 お父様が嬉しそうに部屋から出て行った。


 確かに夜会は面倒だが、そんな美味しいお菓子があるのなら、何が何でも食べない訳にはいかない。そのお菓子を食べたら、さっさと帰ってこればいいだけだし…この世のものとは思えないお菓子、ぜひ食べてやろうじゃない。

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