第6話 仕組まれた戦場
地獄の渦中っていうのはこういう事をさすんだろうな。そんな事を俺は漠然と考えていた。
四方八方全てが敵だらけ。魔装兵こそいないが、それ以外は大体いる。剣に槍。斧にハルバード。弓まで様々だ。
「警戒班は何をしていたんだ?」
「さぁね、大方サボってたんでしょ平和ボケって嫌になる」
ケミーと背中を預け合いながらそんな軽い冗談を重ねる。
森の中、逃げ場はない。戦闘員は俺達と数人の兵士。
魔装展開を使えるのは1人。隊長だけだ。
森の中だから逃げ場も無い。
「悪いなお前達。とんだ任務になった」
隊長が笑う。本当にな。俺は軽く溜息を吐く。
隊長に軽く目線を向ける。
「本来の任務、なんでしたっけ隊長」
「ただの警備任務だな。遠方ではあったが」
「実際は?」
「攻撃を受けているな。鎧を見るにただの都市国家だろうが」
都市国家から攻撃を受けるなんて軍で対処する仕事だろうが。この近辺に常駐している部隊を集めても千も行かないぞ。
というか、そもそも警備班が動いていれば都市国家が動いたって報告がくるはずだ。それに気がつかない? あり得ないだろうが。
おそらくはわかってて見逃されてる。キナ臭いにおいがする。
だが今は生き残る事が最優先だ。俺はゆっくり息を吸って吐く。
「道をこじ開けますトルーダ隊長」
「それは俺の仕事だアレン」
「隊長も嫌な臭いがするでしょう。隊長は備えておくべきです……それとも、俺の実力が信用できませんか教官?」
俺が学生時代の時のノリで話しかけるとトルーダさんは困ったように笑う。そりゃそうだ、学生時代何度も俺に負けてるからな。
だが信用はしてくれたのだろう。トルーダさんは確かにうなずいた。
「任せたぞ」
「それ、必然的に私も巻き込まれるんだけど?」
ケミーが苦笑いをしながらも剣を構え直す。わかっていての軽口だ。
俺は逆に少しだけ笑みを返してやる。
「怖いのか?」
「冗談……うかうかしてたら手柄は全部貰うから」
周囲を見る。1番層が薄い場所。そこに向かって突っ込む。
数だけで言えば圧倒的に不利。まぁしょうがないか。こっちは1部隊。対する相手は都市国家とはいえ国家レベルだ。
とはいえ、都市国家も放置は出来ない。天使の召喚を止めるまでにこいつらも間引いておく必要がある。じゃないとバッドエンドだ。
ED3。表向きのトゥルーエンド……終わらない戦争。戦争で疲弊したリンバレンに都市国家が攻め込んでくるエンド。ゲームじゃ滅びは描かれなかったが、実際の世界になってるここじゃ滅びが見えている。都市国家が合わさった時の総戦力は俺達の数倍以上。
つくづく狂った世界を作りやがったよ作者は。
心の中で恨み言を漏らしながら俺達は敵の群れに飛び込んだ。
「竜剣」
「花剣!」
俺達がそれぞれ武装魔法を発動させる。守りの魔力すらを攻撃に転用する俺の竜剣。そしてケミーの花剣。魔力を推進剤にして文字通りケミーがぶっ飛びながら高速移動を始める。俺達が組み合わさったら雑魚には負けないっての。
「取り巻きは任せるぞケミー」
「大将は仕留めなさいよ!」
ケミーが全力で動き始める。全身から青い粒子を撒き散らしながらのその移動速度は人外の領域。軽く分身が見えるほどだ。
俺の周りを青い閃光が舞う度に軽装の奴らが蹴散らされていく。だが鎧を着込んだ奴らはケミーでは取り切れない。
そう言った手合いが俺の役割だ。
「滅茶苦茶やりやがる」
俺は大きな剣を振り上げた大男の前に滑り込む。防ぐ間すら与えない。
斜めに切り上げる所作と移動の所作を連動させる。そのまま横薙ぎに振るう剣の体重移動を移動にも転用、その男を横薙ぎに薙ぎ払う。
そのまま剣を構え直す。
「このまま押し切るぞ」
「誰に物言ってんの」
ニヤリとケミーが笑うと更にギアを上げ始める。
タイマンに特化してる俺と違って対複数のケミーがいるとやっぱりこの手の相手は楽でいい。
だが眼前に降り立つ異形。全身を鎧で包み込んだ巨人。赤い炎が両手から噴き出し、全身から赤い粒子が漏れ出す。
「レヴナント」
思わず顔をしかめる。人を人とも思わない化け物。無理やり人を縫い付けてそれぞれが武装魔法を発動させた事で能力を跳ね上げた……俺達劣等種の末路のひとつ。実際戦場で相対するのは初めてだな。
魔装展開持ちならタイマンでも倒せる。だが俺達普通の兵士じゃ本来は手も足も出ない……本来ならな。
巨人が咆哮を上げるが、それは声を上げ切る前に沈黙する。
「うるせぇよ」
ステータスだけでゴリ押ししてくる巨人如きで俺を止められるわけねぇだろうが。その程度で止まる程度の温い訓練してねぇんだよ。
1撃でそれを切り倒すと俺は意にも介さず前進を続ける。返り血で全身が真っ赤に染まった。黒と銀の装飾を施した鎧はもうドロドロだ。
だが関係ない。どうせ戦いだ。もう関係ない。
俺が1歩を歩く。奴らの虎の子を倒されればビビる。俺が歩く度に1歩1歩と下がっていく。
1人が逃走したのを皮切りに全員が逃走を始めた。
「……終わりか。あっけねぇな」
そう肩の力を抜いた時だった。
俺の肩をトルーダさんが叩く。
「お疲れだったな……だが、まだ終わりじゃないらしい。むしろ本番だ」
俺は指を指された方を見る。真っ黒な煙が立ち上っている。俺達が向かう街の方面。これが意味する事はひとつ。
街が襲われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます