パート2: 迫る脅威と限界

(はぁっ…はぁっ…! くそっ、キツい…!)


肺が焼けつくように痛い。足が鉛のように重い。

新しい装備は防御力は高いけど、やっぱり前のボロ装備よりは重いし、まだ完全に体に馴染んでいない。

全力で森の中を走り続けるのは、想像以上に体力を奪われた。


(なのに、あいつらは…!)


背後から聞こえる足音は、少しも衰えていない。

ザッ、ザッ、ザッ…!

まるで、俺の疲労を嘲笑うかのように、正確なリズムで迫ってくる。


(どれだけ体力あるんだよ…!?)


ちらりと後ろを振り返る余裕すらない。

ただ、木の幹を回り込んだ瞬間や、少し開けた場所を横切る時、視界の端に黒い影が映り込むことがあった。


(黒っぽい服…? それに、やっぱり複数いる…!)


はっきりと姿を確認できたわけじゃない。

でも、少なくとも二人、いや三人。全員が黒系の軽装鎧のようなものを着込んでいるように見えた。

動きも素早い。訓練された兵士か、あるいは手慣れた暗殺者か…。


(どっちにしろ、俺がまともに相手できるような連中じゃない!)


恐怖が、冷たい水のように背筋を流れ落ちる。


(このままじゃ…ダメだ…!)


息が続く限り走り続けても、いずれ体力が尽きて追いつかれる。

それはもう、分かりきっていた。

森の出口だって、まだどれくらい先にあるのか分からない。


(捕まったら…どうなる? 金目当てなら、金貨とオーク素材を渡せば見逃してくれるか…?)


いや、甘いか。

相手がただの強盗なら、もっと手荒な方法で最初から襲ってきたかもしれない。

こんな風に執拗に、しかも手慣れた様子で追いかけてくるのは、何か別の目的があると考えた方がいい。


(俺自身が目当て…? なんで? 俺なんかに何の用が…?)


オーク討伐? ランクアップ?

そんなことで、こんなプロみたいな連中が動くのか?

分からない。分からないけど、捕まったら絶対に碌なことにならない!


(…逃げるだけじゃ、ダメなんだ…)


じりじりと、確実に狭まってくる包囲網。

息も絶え絶えになりながら、俺の頭は必死に別の選択肢を探し始めていた。


(どこかで…迎え撃つしかないのか…?)


無謀だとは分かっている。

相手は複数で、手練れだ。

俺はDランクになったばかりで、スキルだって【パリィ】しかない。

勝てる確率は、限りなく低い。


(でも…このまま捕まるよりは…!)


死に物狂いでオークを倒した時のことを思い出す。

あの時だって、絶望的な状況だった。

でも、【システム】が俺を助けてくれた。


(システム…そうだ、俺にはまだ、あれがある!)


残りSPは4。

それに、レベルだって上がったんだ。

まだ、何かできるかもしれない。


俺は走りながら、周囲の地形を今まで以上に注意深く観察し始めた。

逃げるためじゃない。

戦うために。

たとえ僅かでも、俺に有利な場所を見つけ出すために。


背後から迫る足音は、もうすぐそこまで来ていた。

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