パート9: 戦利品とシステムの再認識


(勝った…本当に、勝っちまった……)


オークの巨体を前に、しばらく呆然としていた。

まだ心臓がバクバクいってる。全身も痛い。

でも、生きている。それが何より重要だ。


すると、また頭の中にピコン、と音が響いた。


《オークを討伐しました》

《経験値を 580 EXP 獲得しました》

《ドロップアイテム:オークの魔石(小) x1、オークの牙 x2、汚れた棍棒 x1》


(経験値…? ドロップアイテム…!)


目の前のウィンドウに表示された文字を見て、はっとする。

そうだ、モンスターを倒せば経験値が手に入ってレベルが上がるし、素材だってドロップするんだった!


(しかもオークだぞ!? こいつの素材なら、結構高く売れるんじゃ…?)


疲れ切った体に鞭打って、オークの亡骸に近づく。

ウィンドウの表示通り、胸のあたりに鈍く光る小さな石が埋まっているのが見えた。


(これが魔石か…! 小さいけど、間違いなく魔石だ!)


魔石は魔法の触媒や魔道具の材料になる貴重品だ。

ゴブリンなんかじゃまずドロップしない。オークだからこそ手に入ったんだろう。


(それに、牙も二本…これも武器とか装飾品に加工できるはずだ!)


汚れた棍棒は…まあ、ただのデカい木槌だろうけど。


(ごくり…)


思わず唾を飲み込む。

魔石(小)一つだけでも、銅貨換算で結構な額になるはずだ。牙も合わせれば、俺が今まで一週間必死に働いても稼げないような金額になるかもしれない!


(すげぇ…! これが【システム】…! ただレベルアップしてスキルが使えるだけじゃないのか!)


経験値やドロップまで、こうして分かりやすく表示してくれるなんて。

異常だ。異常すぎる。

でも、今の俺にとっては、これ以上ないくらい頼もしい力だ!


(これさえあれば、俺は…本当に変われるかもしれない!)


貧乏な底辺生活から抜け出して、もっと強くなって、いつか…!


(…っと、いけねぇ。浮かれてる場合じゃない)


ふと、冷静になる。

HPは回復したとはいえ、まだ半分以下だろうし、MPもパリィで使ったから残り少ないはずだ。

左腕も痛むし、バックラーはひしゃげてる。


(そうだ、依頼は…巨大蜘蛛だったよな…)


オークを倒したからって、依頼達成にはならない。

本来の目標はまだこの先にいるはずだ。


(でも…今の状態で、さらに巨大蜘蛛と戦うのは…無謀すぎる)


それに、オークがいたってことは、このダンジョンが本当にEランク向けなのかも怪しい。

もしかしたら、もっとヤバい奴がいるかもしれない。


(よし…決めた)


オークから魔石と牙を慎重に回収する。

汚れた棍棒は…重いし、いらないか。


(今は無理せず、ギルドに戻ろう。この成果を報告して、報酬をもらって、しっかり体制を立て直すんだ)


この魔石と牙を売れば、装備も新調できるかもしれない。

そうすれば、もっと安全に探索できるはずだ。


(焦る必要はない。俺には【システム】があるんだから)


初めて手にした確かな力と、未来への希望。

それを胸に、俺はオークの亡骸に背を向け、廃坑の入り口へと慎重に歩き始めた。

早くこの薄暗い場所から出て、光を浴びたかった。

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