第10話 【リアルとフィルター】

 スマホの画面に映る自分は、いつも完璧な笑顔だった。


 お気に入りのカフェで撮った写真、旅行先での楽しげな一枚、フィルターで整えた自撮り。どれも明るく、楽しそうな瞬間ばかり。


 「いいね」がつくたびに、心が満たされる気がした。


 まるで、自分の存在が誰かに認められたような気がして。


 でも——


 ふと、鏡を見た。


 そこに映る自分は、スマホの中の自分とは違っていた。


 目の下にはうっすらとクマが浮かび、口元はなんとなく力が抜けている。鏡の前で笑顔を作ろうとしたが、どこかぎこちなくて、そのままため息に変わった。


 「本当の私は、どっちなんだろう?」


 スマホを開く。


 フィルターをかけた自分を見つめる。「いいね」が並ぶ画面をスクロールしながら、少し考える。私は、どちらの自分を大切にしているんだろう。


 そのとき、友人の投稿が目に入った。


 ——「今日は疲れた。たまにはこういう日もあるよね。」


 添えられていたのは、眠たそうな顔の写真だった。


 飾らない表情。取り繕わない言葉。それなのに、その投稿にはたくさんの「いいね」とコメントがついていた。


 「ゆっくり休んでね」

 「すごくわかる、その気持ち」

 「無理しすぎないでね」


 どの言葉も温かかった。


 完璧じゃなくても、人は繋がれるのかもしれない。


 そう思ったら、少しだけ心が軽くなった。


 スマホのカメラを起動する。


 フィルターをかけずに、一枚。


 いつものように完璧な笑顔じゃない。でも、それでいい気がした。


 ——「今日はちょっと疲れた。でも、そんな日も大切にしたい。」


 投稿ボタンを押す。


 画面の向こうに誰かがいる。


 たとえ「いいね」が少なくても、それでいい。


 少しだけ肩の力が抜けた気がした。


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