第5話

「そうだよ、物心つく頃から側にいた。あ、明陽でいいよ。」

「そんな、呼び捨てなんか為たら殺されちゃいますよ!」

「まさか。」

 明陽が苦笑して言った。

「本当ですよ、皆『明陽様』って呼んでるのに、僕なんかが……」

「その呼び方は余り好きじゃ無いんだ…。」

「どうしてですか?」

明陽の言った事が少し意外だったので、健介は不思議に思って尋ねてみた。

「江戸時代の若様じゃあるまいし、明陽様だなんて…時代錯誤もいいとこだよ……」

 明陽はそう言ったが、健介は

(い~え、貴方は充分若様です……久我家の人なんだし……)

と内心思ってしまって苦笑した。

 久我家は所謂高貴なお家柄と言うヤツで、この時代にあっていまだに格式と威厳を保ち続けている。

そして、その極め付けが九条家なのだ。

「でも、皆が明陽様って呼ぶの…分る様な気がしますよ。」

健介はそう言ってご飯を頬張った。

「そうかな……」

明陽は少し淋しそうな顔をした。

だからと言う訳ではないが健介は

「じゃあ明陽さんって呼ばせて頂きます。それでも皆に白い眼で見られそうだけど……」

と言ってニッコリ笑った。

「アハハ、じゃあ僕は健介って呼んで良い?」

「あ、はい勿論です。」

「じゃ、決まり。」

明陽はそう言うと弁当に箸を付けた。

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