アイドルと包丁

スセリビメ

料理の守護神様

私の名前は穂波鏡花ほなみきょうか

一応アイドルやらせてもろてます。

アイドルってキラキラした衣装着て歌って踊れるイメージがあるでしょ?顔も小さくてスタイル抜群で生まれながらの天才肌って感じの皆の憧れ。ステージに上がれば誰からも愛され、町を歩けば視線を集め、そんな華々しいアイドルデビューを夢見たかった。


な~んて思っていた時期もありましたよ。


「お疲れ様でした!!」


テレビ局での仕事を終えれば挨拶して帰路につく。

スケジュールなんて確認しなくても今週はもう仕事なんてない。アイドルとしての道を極めて数年、念願のデビューを果たすも所詮ド平凡な自分はメンバーの入れ変わりが激しいグループで初めてステージに立つもそれっきり。認知度が上がったわけでもなく人気投票でも最下位。握手会、サイン会、ライブでも自分目当てのファンは少なく、今回ようやく貰えたお仕事だってなんだかパッとしなくて。大した結果をうまないまま、アイドルとして生きる自分に限界を感じていた。


「ただいま~」


家賃三万五千円の激安アパートに帰ればさっそく夕飯づくり。今日作るのはハンバーグだ。これはけっこう得意料理。どうせ仕事は暫くないのだ、気持ち切り替えていこうと冷蔵庫を漁る。


「あ、あったあった!万能ハンバーグのもと!!」


これはスーパーで手に入れたハンバーグ用のパン粉だ。作り方も超シンプルで、タマネギ、ひき肉、パン粉、牛乳だけでタネが作れ、焼いて市販のソースと絡めれば完成する卵いらずでお財布にもありがたい。


「ふむふむ。今日はハンバーグか、よいぞよいぞ!!」


不意に穂波の目の前に現れたのは若い男性。

我が家に代々祀られている彼は自称「お料理の守護神」。鏡花が産まれた時から一緒にいる神様で鏡花の守護神でもある。


「いい匂いだ。やはりお前は料理がうまいな」

「少し手を抜いたけどね(笑)」


ハンバーグを盛り付け一つを向かい側の机に置けば、神様は待ちきれずかぶりついていた。食い意地が張った神様だ。


「うまうま。して、アイドルとやらはどうだ?」

「ん~ボチボチってとこかな。でも良くはないね。最近は限界感じてる…」

「なら辞めてまえ。そんなアイドルとやらよりお前にはこの我がいるのだ。料理の腕を極め生きる方が楽しかろう」


空になった皿に満足そうな神様は、「デザートは~?」とせがむので仕方ない。昨日作っておいた焼きプリンをあげる。これは神様から教わったメニューを元に作ったものだ。


「ん、こっちも美味!さすがは我、料理の天才」

「いや作ったの私なんですけど?てかどうせなら料理の神様じゃなくてアイドルの神様とかが欲しかった~」

「な、文句を言うでない!!誰のお陰でここまで料理が上達できたと心得る。お前の家系は昔から料理下手な人間しかおらぬせいか、お供え物にも手が付けられん始末で大変だったというのに!」

「お供え物ねぇ」


ここで言うお供え物とは我が家の仕来りの一つ。

料理下手な家系で有名な穂波家は、憐れみのあまり神様が守護神になったことで料理が上達した家系でもある。代償に作った料理を神様へお供えせねばならず、この代は鏡花なのだ。


「いっそのこと料理アイドルでデビューなんて~って…ん?なんか焦げ臭くない??」

「むむむ??」


部屋が焦げ臭い。

鏡花が不思議に思い外へ出れば目の前に立ち込めた黒い煙。


「鏡花!!逃げろ、火事だ!!!」


神様が慌てて叫ぶ。

原因は隣人の火災トラブルらしく、壁を伝ってゴオゴオと赤い炎が煙と共に押し寄せてきた。逃げる間もなく鏡花の体は炎に包まれてしまい意識が遠のく。倒れた鏡花に神様が上から覆いかぶさった。


そこで完全に意識は無くなった。














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