異世界配信ライフ!~スパチャで生き抜く冒険記~

浅草文芸堂

第1話 登録者数一桁のVチューバー、異世界へ

『……誰か、私の声を聞いてくれてますか?』


 暗い部屋。

 デスクの上には、カメラ付きのノートパソコンが一台。

 モニターの隅には、「視聴者数:3人」の数字が虚しく光っていた。


「今日は……あんまり面白くできなかったかも……」


 彩香は、画面に映る自分の姿を見つめながら小さくため息をついた。

 画面に映るのは、自分のVチューバーアバター『金糸雀アヤメ』。黄色を基調とした可愛らしいデザインの少女キャラで、髪には鳥の羽のアクセサリーがついている。


 Vチューバーを始めて一か月。登録者数はたったの7人。


「やっぱり、才能ないのかな……」


 今日はホラーゲーム実況だった。

 雑談枠で話すネタも無くなり、結局ゲームに逃げたのだが──


「ひぇ……っ」


 血まみれの狂女に追いかけられるシーンで、彩香は固まってしまった。


「あっあっ」「わっ」


 短い悲鳴しか出ず、リアクションが取れない。


「はぁ……」


 そんな感じで、配信時間はもう1時間を超えていた。

 それでも視聴者は増えず、チャット欄は沈黙。


——─と、その時。


アリスP:「今日は歌わないの?」


「あ、アリスPさん、こんばんは。歌は……新しいの、まだ覚えてなくて……」


アリスP:「そっかー」

しぃちゃん:「金糸雀ちゃんの歌好き」


「しぃちゃんさんもこんばんは。ありがとうございます」


ケンちゃん:「もっと腹から声出せw」


「ケンちゃんさん……こんばんは」


ケンちゃん:「配信してると思って来たら、萎え散らかしててワロタ」


「……えへへ」


 彼らは、数少ない常連リスナーだった。

 彩香はぽつりぽつりと語り出す。


「実は……今日、学校で失敗しちゃって……」


 クラスメートに話しかけられたのに、キョドってしまった。

 そのせいで、相手が引いてしまった気がする。


「……もう二度と相手してくれなくなっちゃうかも」


 彩香は溜息を吐く。


「……学校では空気。配信もうまくいかない。わたしって、ほんとダメだなぁって……」


ケンちゃん:「しょーもな」


「しょ、しょーもなって……」


ケンちゃん:「思春期かよ。気にすんなって」


「だ、だって……これが元で無視とかされるようになったら……」


アリスP:「考えすぎw」


「そ、そう……かな?」


しぃちゃん:「明日こっちから話しかけてみたら?」


「……みんな」


 たった3人。

 でも、見てくれる人がいる。


「……ありがとう……」


 登録者が少なくても、繋がれる人がいるだけで、続ける意味はある。

 彩香は思わず笑みをこぼしていた。


「えへへ……」


ケンちゃん:「なにわろてんねん」


 すかさずつっこまれる。

 そんなやり取りに、彩香はなんだか元気が出てくる。


「……そろそろ配信終わりますね!」


ケンちゃん:「おつ」

しぃちゃん:「おやすみー!」

アリスP:「歌枠待ってる」


 彩香は配信を終了し、パソコンの画面を閉じた。


「ふぅ……明日も頑張ろ」


 その時—─—


 突然、画面がチカチカと光り、PCのスピーカーから不思議な音が鳴り始めた。


「え、なに……?」


 モニターの端に、見覚えのないアイコンが浮かんでいる。


≪異世界ライブ 起動します≫


「えっ……?」


 次の瞬間——─


 画面からまばゆい光が溢れ、部屋全体が白に染まった。


「きゃぁぁぁ!!」


≪選定完了──《力集める焦点者》、召喚を開始します≫


 ぐにゃりと歪む視界。

 床が消え、ふわりと体が浮いた。


「うそ……なにこれ……っ!?」


 光の渦に包まれ、彩香の意識は途絶えた。


 ◆


『……誰か、私の声を聞いてくれてますか?』


『……お願い……世界を救ってください』


 どこか遠くから聞こえる声。


——─そして、目を覚ますと。


 彩香の目の前には、広大な草原が広がっていた。

 青空の下、どこまでも続く緑の大地。頬にあたる風は涼しく、足元の土はリアルすぎるほどに感触がある。


「え……ここ、どこ?」


 慌てて周囲を見回す。パソコンも、部屋も、いつもの日常も消え去っていた。


「夢……じゃないよね……?」


 そう呟いた瞬間、頭の中に先程の奇妙な声が響いた。


≪異世界ライブシステム、起動完了。配信者カナリア、登録完了しました≫


「えっ……?」


 彩香は呆然と立ち尽くす。

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