第6話 乙女座『手紙の約束』
「言葉にできない想いを、紙の上に綴る夜があった。」
1. 消えない手紙
秋の風が吹き始める頃、僕は一通の手紙を受け取った。
──「秋晴れの午後、図書館で待っています。」
それは、澄んだ字で綴られた短い文章。
差出人は、綾乃(あやの)。
小さい頃から一緒にいた、静かで優しい幼なじみ。
彼女は、言葉よりも手紙で想いを伝えることが多かった。
「……綾乃、久しぶりに手紙なんて書いて。」
僕は、少し胸がざわつくのを感じながら、約束の場所へ向かった。
2. 図書館の窓辺
秋の日差しが柔らかく差し込む図書館。
大きな窓辺の席に、彼女は座っていた。
「久しぶり。」
「うん。来てくれてありがとう。」
綾乃は、少しぎこちなく微笑んだ。
「手紙なんて、珍しいじゃん。」
「……最近、いろいろ考えてて。」
彼女は、本のページをめくるように、静かに言葉を選んでいた。
「ねえ、悠真(ゆうま)。覚えてる?」
「何を?」
「昔、手紙でやりとりしてたこと。」
ああ、確かにそんなことがあった。
小さい頃、些細なことでも手紙を書き合っていた。
『今日、きれいな月を見たよ。』
『テスト、頑張ったね。』
『風邪ひかないようにね。』
何気ない言葉のやりとりが、僕たちの特別な時間だった。
3. 手紙に込めた想い
「私ね、手紙を書きながら、気づいたことがあるの。」
綾乃の視線が、窓の外の紅葉に向けられる。
「言葉って、書いてみると、自分の本当の気持ちがわかるんだなって。」
「本当の気持ち?」
彼女は、小さく息をのんだ。
そして、そっと一通の封筒を僕に差し出す。
「これ、読んでほしい。」
丁寧に折りたたまれた便箋。
僕はそれを開き、目を走らせる。
「悠真へ。ずっと言えなかったけれど、私は――」
その先の言葉を読み進めるうちに、胸の奥が熱くなるのを感じた。
4. 返事の手紙
秋の夜風が、静かに図書館の窓を揺らす。
僕は、震える指先でペンを取った。
そして、一枚の紙に文字を綴る。
『綾乃へ。手紙を読んだよ。実は、俺もずっと――』
想いを込めた手紙。
それをそっと、彼女の手のひらに返す。
綾乃は、それを見つめ、そっと微笑んだ。
「手紙って、不思議だね。」
「なんで?」
「ちゃんと伝えたいことが、伝わる気がする。」
窓の外には、秋の月が優しく輝いていた。
【終わり】
――「言葉にできない想いを、紙の上に綴る夜があった。」
乙女座らしい、慎重で誠実な恋の物語。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます