③ヒロイン・カサンドラ(後編)







 目の前に広がるのは紅蓮色の海、鼻に付くのは血の臭い。


 大気を揺らすのは逃げ惑う人々だけではなく、山賊に歯向かったが故に斬り殺されてしまった者達の悲鳴と怒号、怨嗟の声。


 家は焼かれ、田畑は荒れ果て、大地が紅く染まる。


(待ってました!山賊襲来!!)


 きゃはっ♡


 親を殺された恐怖で怯える娘達とは対照的にカサンドラだけは、これで自分の夢に一歩近づいたのだと、表面上は地獄のような光景に顔を青くしながら心の中では


『皆が死んじゃうのは、あたしが女神になる為に避けて通れないイベントだったの♡でもね、皆はヒロインであるあたしの為に死ねたのよ?だからね、あたしの踏み台になったという事実を誇りに思っていいのよ♡』


 と、山賊による蛮行に拍手喝采を送っていた。


 食料や冬に向けて備蓄していた野菜や保存食を略奪し、見目のいい少年少女を捕らえ奴隷商人に売り飛ばした事で大金を得た山賊達は、意気揚々とアジトへと戻っていく。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 どこまでも広がっている青い空


 降り注ぐ太陽の光


 空を飛ぶカモメ


 穏やかな紺碧の大海原を、一隻の船がロードライト帝国の港町に向けて航海している。船の正体は、ロードライト帝国の市場で売り飛ばす奴隷を乗せている商船であった。


(待っていてね、アイドネウス様♡)


 貴方の未来の妃・カサンドラが参りますわ~♡


 船室では、自分はこれからどうなるのか?という不安を抱えて涙を流している娘達をよそに、アイドネウス攻略を胸に秘めているカサンドラは笑みさえ浮かべでロードライト帝国に着く日を心待ちにしていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







その頃


 ガクブル(((ノ)ŎдŎ(ヽ)))ガクブル


「お兄様?どうかなさいましたの?」


 ここはアイドネウスが住む、一年中四季折々の花が咲き乱れる空中神殿。


 兄の神殿に遊びに来て緑茶といちご大福を楽しんでいるパンドゥーラが、寒さで震えているかのように腕を擦っているアイドネウスの身を案じる。


「いや・・・何かこう、電波と言えばいいのか?冥闇に匹敵する悪寒が俺の背筋に走った・・・」


「まぁ!」







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