①転生先は悪役寵妃だった-2-







 光を集めたかのような淡い金色の髪


 グリーントルマリン色の瞳


 人目を惹かずにはいられない愛くるしい顔立ち


 もちもちとして触り心地の良い白くて柔らかい肌



「自分で言うのも何だけど・・・流石は未来の悪役寵妃なだけあって美幼女だ」


 自画自賛する訳ではないが、鏡に映る自分を見ている子供が感心した声を上げる。


 彼女の名前はアストライアー。


 現世はミントグリーン王国の王女であるが前世は霧雨 灯夜という霧雨神社の次期宮司、そして女は知らないが男を知っている形で死んでしまった青年でもあった。



 霧雨神社の跡取り息子であった事


 中学・高校時代のクラスメイトだった菅谷 凛子の事


 童貞を捨てる前に、自分が通っていた高校の元プロのバスケ選手で身体の故障により高校の教師となった稲垣 和寿に後ろの初めてを奪われた事


 その和寿に告白されただけではなく、何度も関係を持っていた事


 そして───和寿を愛していながら自分は彼の想いから逃げていた事



(どうせなら悪役寵妃ではなく、モブの男に生まれ変わりたかった・・・。そして、前世の記憶を思い出すのは、童貞を捨ててからが良かった──・・・)


 四歳になる数日前にアストライアーが灯夜としての記憶を思い出した時、最初に思ったのはそれだった。


 その自分がどうした事か、凛子が夢中になっていた乙女ゲーム【煌々たる愛】の悪役寵妃であるアストライアーとして生まれ変わったと知った時は驚いたが、それと同時にある不安が過る。


(ま、まさか・・・ゲーム補正だの強制力だのといったものが働いてロードライト帝国に故郷が滅ぼされるだけではなく、カルロスの後宮に入れられるんじゃないだろうな?)


 ゲームにおけるアストライアーの人生がどのようなものであったか?


 灯夜として生きた記憶があるアストライアーは、凛子がプレイしていたところを思い出す。



 物語はある村を滅ぼした山賊が、ヒロインを含む若い村娘達を奴隷商人に売り飛ばした。


 奴隷商人は彼女達を船に乗せ、東西の文化が交わるロードライト帝国を目指して航海する。


 ロードライト帝国に到着した奴隷商人は山賊から買い取った若い娘達を、多くの人々で賑わう市場で一糸纏わぬ姿にした上で女奴隷として披露するのだ。


 そんなヒロインのカサンドラをカルロスの側小姓であるゼフュロスが買い取り、彼女を後宮に入れたところからゲームが始まる。


 農民の娘であるカサンドラには言語・歴史・礼儀作法・マナーだけではなく舞踏・詩歌管弦等、女性として必要な教養は何一つ身に付けていなかったのだが、天真爛漫な振る舞いと自然な笑顔が後宮の主であるカルロスだけではなく近衛騎士団長のギュスターヴ、宰相のエンディミオン、側小姓のゼフュロスの心を惹きつけて止まないのだ。


 そのヒロインの前に立ちはだかるのが、カルロスルートでは寵妃であるアストライアー、ギュスターヴルートでは婚約者であるエレクトラ、エンディミオンルートでは婚約者であるアルティミシア、ゼフュロスルートでは婚約者であるキャロライン。


 カルロスに故郷を滅ぼされたアストライアーは献上されたとはいえ元を正せばミントグリーン王国の王女、エレクトラとアルティミシアは大臣の娘、キャロラインは豪商の娘という風に、彼女達は生まれだけではなく美貌と教養、そして淑女としての振る舞いも完璧なのだ。


(俺が攻略対象者の一人として転生していたら、ヒロインよりも婚約者を大事にするわ・・・って違う!今の俺が思い出さなければいけないのは、アストライアーの人生だ!)


 気持ちを切り替えた灯夜は思い出す。


 カルロスルートでは、ちっぱいどころかぺったんこなヒロインが後宮に入った当初は無知で無作法なヒロインではなく、淑女としての仕種と優雅な物腰を見せながら男を悦ばせる娼婦のような後宮の女達───特に女達が争いを起こさぬように後宮を取り仕切るアストライアーがカルロスのお気に入りだった。


 だが、作り物めいた笑みしか浮かべない後宮の女達より大きく口を開けて笑い奔放に振る舞うカサンドラにカルロスは夢中になり、寵愛を受けた結果、ヒロインは四人の皇子を儲けるのだ。


 後年、多くの御子を儲けた事で後宮の権力を握ったヒロインは『カッターキャー』を自作自演して、アストライアーと彼女の息子であるプロメテスを陥れ、二人は断頭台に散る事になる───。


 カルロスの死後、跡を継いだのはヒロインが産んだ息子の一人であるシジフォス。


 文字の読み書きだけではなく、小学校低学年で習う簡単な計算も出来ないシジフォスは政を宰相や大臣達に任せて、自分は後宮に入り浸って酒と女に溺れる日々を送るという、これまた絵に描いたようなバカ殿で、ロードライト帝国を傾ける切っ掛けとなった───。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る