第4話 王室直属護衛隊
アベルが去った後,ユウタとカナは,行商人の青年に起こされて,意識を取り戻した。強い電気は,身体を内側から壊す。ユウタもカナも,身体から脂汗が止まらず,呼吸もままならない状況だった。
幸いなことに,サミュエルが電撃魔法に対する治癒薬を持っており,それを2人にも分けてくれたため,2人はなんとか動けるまでに回復することができた。
行商人の青年は,突如として現れた魔族の襲撃に怯えきってしまっていたが,サミュエルが彼をなだめてくれたことで,再び馬車を動かすことができるようになった。
アベルの襲撃の翌日の午後,彼らはベルセルク王国になんとか帰還することができた。
ベルセルク王国は,近隣諸国と戦争し,他国を併合することでできた連邦制国家である。ベルセルク家の王族の住む城を360度囲うようにして,城下町が築かれている。そして,城下町の外には,敵の侵入を防ぐための巨大な城壁が築かれていた。
城下町の入口まで行ったところで,サミュエルが門番に向けて身分証を提示した。サミュエルの身分証を見た門番は,慌てた様子で城下町へのゲートを開けてくれた。
「ねえ,ねえ。あのおじさん,ずいぶん偉い人みたいだけど,誰なの?」
城門の入口に下ろされた鉄製の重い扉を門番達が開けているのを待っている間に,カナが行商人の青年に聞いた。
「私が行商をしていた街で,傭兵のあっせん業者に紹介された方です。なんでも,ベルセルク王国に通じる道の護衛を専属で請け負っている人だとか。
名前は,たしかサミュエルさんというはずです」
行商人の青年は,カナとユウタに向けて,傭兵との雇用契約書を見せた。
カナは,しばらくその雇用契約書を眺めていたが,やがて何かを思い出したかのように言った。
「サミュエルって,もしかして,王室直属部隊のサミュエルじゃない!」
「それって誰なの?」
ユウタがカナに聞いた。行商人の青年も,サミュエルが誰か分からない,という顔をしている。
カナは,そんな2人を見て呆れた顔をしたが,「そういえば,ユウタは平民の出だったわね」と言って,改めて教えてくれた。
「ベルセルク王国はね,戦争で他国を征服し,植民地にしてここまで大きくなった国なの。元々,100年前まで,資源も何もない貧乏な国だったのよ。
それを,軍事国家としてまとめ上げ,数々の戦争を繰り返したのが,今のルイ王家の一族よ。そして,ベルセルク王国は,軍事国家として,軍隊における職位がそのまま,社会的地位の高さになるよう,あらゆる社会制度が整えられているわ。
植民地とされた国の兵士達が『二三部隊』,ベルセルク王国の兵士が『一九部隊』,ベルセルク王国の精鋭部隊が『一七部隊』,ベルセルク王国精鋭部隊の選出メンバーの所属部隊が『一三部隊』。
所属する部隊の数字が小さくなるほど,人数も絞られていくわ。今,『二三部隊』と『一九部隊』を併せて,ベルセルク王国は10万の兵士がいるわ。
そして,数字が小さくなるほど,兵士個人の兵士としての強さは上がっていくの。
私が言っているサミュエルは,『王室直属護衛隊』。いうなれば,この国の貴族中の貴族,家老や国家顧問の人たちよ」
「今,言った中には,そんな名前の部隊ありませんでしたよ」
行商人の青年の青年が言った。
「『王室直属護衛隊』は,『一三部隊』のさらに上。事実上の『一一部隊』なの。『王室直属護衛隊』は,所属人数も,活動内容も伏せられているの。ただ,『王家の伝家の宝刀』と呼ばれていて,彼らが動く時は,王国の歴史が動くときだと言われているわ」
ユウタも行商人の青年も,カナの話をピンとこない表情で聞いていた。ユウタは,何となく疑問に思うことがあって,聞いた。
「ふうん,やけに詳しいね,カナ」
「私,今は冒険者として自営業者だけど,おじいちゃんは『一三部隊』の所属で,代々,王国軍の回復部隊の部隊長だったのよ」
ユウタは,なるほどと思った。
魔法使いとしての資質は,ほとんどが親からの遺伝で決まる。一般的に,優秀な魔法使いの両親からは,優秀な才能を持つ子どもが生まれる。
カナがギルドで,どこのパーティからも引っ張りだこなのは,彼女がきわめて優秀な回復魔術専門のプリーストだからだ。そして,その才能を,彼女は両親から受け継いだわけだ。
門番と話を終えて戻ってきたサミュエルは,今まで被っていた兜を取り,3人に改めて挨拶をした。
「挨拶が遅れてしまい,申し訳ない。
私の名は,サミュエル。この王国の兵隊長をやっている」
行商人の青年が,緊張に満ちた顔で言った。
「あ,あの,道中は色々と失礼しました!
ベルセルク王国の兵隊長さんとは知らず,馬の世話や生活品の買い出しなどさせてしまいました。
この国の偉い方だと知っていれば,道中の身の回りのことはさせていただきましたのに。
どうかお許しください」
そう言って、青年は頭を下げた。
サミュエルは,青年の態度に驚いて言った。
「そんなに縮こまらなくていいよ。
傭兵に身をやつしていたのは,この道中に,最近,魔王軍の手先が現れるという話を聞いていたからなんだ。
それが,まさか,いきなり魔王軍の中でも,とびきりの猛者が出てくるとは思わなかったよ」
「さっきの男は,何だったんですか?」
今度は,カナが聞いた。
「うむ。私の口から説明してもいいが,話がちょっと長くなる。君たち,どうかな?私と一緒に,中央の城に来ては」
「「「ええっ!」」」
王国の中に入ると,城下町が広がっていた。
城へ通じる大きな道が,東西南北に4本伸びている。
その大通りの脇には,無数の商店や教会,民家がところ狭しと並んでいた。
ユウタとカナにとっては,見慣れた街である。
サミュエルが手配した馬車に乗って,中央の城に向けて,3人は移動した。
中央の城の入口で,行商人の青年は街への帰還を許され,帰って行った。
「みなさーん,道中は助けていただきありがとうございました!
また会いましょう!その時までお元気で!」
行商人の青年は,命いっぱいユウタ,カナ,サミュエルに手を振ると,荷車を引いた馬車を前に進ませた。
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