(1-1.5r)セーブ義務化社会において、私はいま“正常”であることを報告します。
リドリーがケンに会う少し前。
「セーブしなきゃ…」鼻をすっとすすり、そのまま軽くつまむ。すこし水気がついた。
次に通院できるのは42周期後。この頻度では使えない。手に取った吸気用に回復ポーションを薄めたネブライザーの残量を見て、私は呟いた。鼻の奥がピリピリして、温かくなる。
こめかみに埋められたオーグの神経定着が安定しないのか、頭痛がする。重いからだと精神を引きずってベッドから起き上がって「わたしのばしょ」で所定のルーティンを終えるて立ち上がると、オブリガの椅子がひじ掛けが畳まれながら自動で壁に収容され、自分の囲う、四方の壁と上から熱い湯が降り注ぐ。昔の冷たい水から徐々に温かくなるシャワーのときはこの、逃げ場のない四方の端っこに体を寄せて最初の冷たい水を避けたものだ。まぁ、そのときは今より「わたしの場所」は狭くて振り返ることもできなかったが。いまは隅っこにいけば肩だけを濡らす程度にできる。そういって避ける必要はなくなるほど適度な、いいえ、私好みの少し熱い熱湯だった。
目をつぶってシャワーの心地良さを耳と肌で感じる、わたしは本当にこの時間が好きだ。これがあるからベッドから這ってこれる。温かさに目をつぶっていると暗闇の中ででウィンドウが表示される。
RESULT消状〇 環境〇 酵素〇 出血× 感染症× 炎症△ 寄生虫× 重金属△ 代謝産物△ 保持エテル N 汚染エテル C エテル思念汚染 N ・血圧:132/86(上昇傾向)・心拍数:やや高め(不安要素あり)・内分泌系:ストレスホルモン増加 注意:ストレス過多です。作業の合間にストレッチ、軽い運動を推奨します。通勤で階段を使用してみましょう!「あなたのエテル資質:63%。“再生資格”までもうすこし!」おススメのキャンペーン【詳細を表示】 →あとで
本日の血税 ✓□□□「魔王は倒されましたが、残党の抵抗は続いています。最前線で戦う栄誉は、あなたには与えられません。ですがせめて、いまも塹壕で眠る守り人たちに祈りましょう。
王国ニ栄光アレ。蛮族ニ慈悲アレ。
—— 平和省・真理省 共同声明」
ムードオルガンが目覚めのときのまったりとした音楽から、テンポアップして覚醒を促す曲に自動で生成され違和感無くつながっていく。
熱いシャワーは数秒で終わる。このお湯にも薬草から成分中質した回復ポーションが含まれていると聞く。少しピリピリした後にお湯だけの温かさとは違う熱が皮膚に残る。
ポーションシャワーでなく、お湯を大きな桶に張って、ゆっくりつかってみたい…私はそう思った。しかし口には出せない。すぐに温かい風が全身をつつむ。これも以前とは違う。冷たい風で休息に水気を飛ばすだけではなくて、心地よく乾かしてくれる。風の魔法のスぺルをこんなに贅沢に使ってくれる現代社会とここまで頑張ったわたしに感謝を送る。風を作る魔法は頭の上だけに収束され、上下左右に停止と移動を繰り返えす。私はそれに合わせてブラシをいれ、それが終わるとオイルを手にとり、軽く髪になじませた。このオイルも残りが少ない。わたしはオーグでスケジュールを呼び出し、42周期後の「救世院」と表示されているウィンドウを意識する。そして呟く「そのあとにヘアオイル」そしてラベルを見る「王が手櫛で整えるとき、髪に宿るのはリリアナの森 リリアナ・アーボル」と書いてある。私はこれがあまり好きになれななかった。いや、好きなんだけど。香りは好きで、なじみ方、触り心地もいいが。香りが上品すぎた。わたしはその香りが好きだが、同僚に「その香り、すこし大人っぽくないかしら?」とか「なんかいい匂いしますね」と言われたことがある。――前者は、女同士のマウンティング。“身の丈に合ってない”って、そう言いたいんでしょう?後者は…何? 髪の匂い嗅ぐとか、気持ち悪いんだけど。
といったところだ。そして値段も結構きつかった。瓶を移し替えて少しだけ残しておこう。でも好きなんだよぉ~コレ。推しも使ってるっていうし…「リリアナアボールよりコスパのいいやつ」そう目前に表示されているウィンドウにを意識してて伝える。ポンっと音もなく「昼 サンノノバ救世院 東塔 予約番号364」の下にツリーでボックスが出現し「TODO」のタイトルの後に 「新刊3万人が傾聴 わたしはどうして恋ができないのか~しない私たちのキャリアアップ編~」「耳栓」「つめやすり」「くつした」の後に *オーグ補足「ヘアオイル」、【オーグからの提案】残りの移し替え用小瓶→【自動】21周期 夜に移し替え用の小瓶購入。 と私がヘアオイルを足して注いでもらうときに先に移し替えるようの小物を買うのを提案し予定にいれてくれた。表示され、さっと視界外に消えた。瓶の配給券残りあったかな… と思うが、オーグが提案してなかったからそれは足りているのだろう。
その下に、広告ウィンドウが滑り込むように表示される。
【提供】「ただのオイルじゃない。私のリズムを守るもの。」 ―― 毎日をまっすぐに歩く人へ。 ナクア・エッセンス*期間キャンペーン:一本買うといまならもう一本ついてくる!
穏やかな森の風景とに白い服で金髪の女性が長い髪をなびかせてティモテっている。テイモてるは異世界人が作ったミームだ、なぜか一時的に流行った。テモテテモテ向こうの世界のなにかの詠唱なのだろう。
「……勝手に出てこないで」
小さく呟いても、もちろんオーグに仕込まれている人工精霊は反応しない。
それに続くように、別のウィンドウが開く。
—
少しお疲れのようですね、おなやみはありますか?
自動応答 人工精霊ノノセラ 「サンノノバ救世院」 *この応答は人工精霊によって送られています*この通信は統合省(lose age)によってプライバシーを担保しています
—
「いいえ、ありません。気分は……最高です」
私はそう答える。それが習慣であり、正解だから。
その直後、ムードオルガンの音楽がゆるやかに変化した。さっきまでテンポの良い覚醒用の音だったのに、今はまるで胎内のような優しい旋律に切り替わっていた
まさかとは思うが、頭の中まで覗いてるのだろうか。
そんな疑念が一瞬だけ頭をよぎる。でも、声には出さない。オーグは“思考までは読めない”ことになっている。おそらく、検体からのフィードバックをへての気遣いだろう。…そのはずだ。 きっとそう。
そうではなくても、疑う事はできないし、調べることはもっとできない。
こんなに便利になったのに、できないことがあるのは不思議ね…頭のなかでそう思うった。
ムードオルガンのテンポは変わらない。「思考まではよめない」。あるいは「思考までは読めないと思わせるため」
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