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@seyama

【1-1K】Wasted,Wired,Wicked.

 金色の花が欲しかった。


 きっと、あなたも一度は見たことはあるはず。でも、それが誰かが貰ったものなのか、自分がもらったものなのかは、わたしにはわからない。


 金色の花はそんなに特別なものではないのかもしれない。でも、わたしはずっと、それが欲しかった。


 小さい頃、褒められると花をもらえた。せんせいが折り紙で作ってくれた、小さなリボン付きの赤い花。自由研究や習字の右上に貼られると、それだけで誇らしい気分になった。幼いわたしにとって、それは確かな証だった。


 けれど、制服を着させられた頃には、もう花なんてつかなくなった。代わりに手渡されるのは、白い紙に黒い文字が並んだ賞状。その枠や上の方には、小さな黄色い花が印刷されていた。学年で貰える賞状の花は小さくて色褪せていたけれど、学校や地域単位になると、花はどんどん派手になっていった。そして、大臣がくれる賞状には、大きな金色の花がつくのだという。


 わたしは、それが欲しかった。


 ただの憧れじゃなくて。わたしがここにいていいのだと証明するために、絶対に必要だった。でも、現実は思ったよりも色褪せていて、努力しても報われるとは限らない。どれだけ頑張っても、誰も褒めてくれなかった。


 だから、やめた。


 部屋のカーテンを閉め、光を遮った。白と黒だけの世界。適当に時間をつぶして、ゲームをして、どうでもいいことを考えて。少しずつ、わたしが何を求めていたのかもわからなくなっていった。


 わたしの世界は、温かい布団の中だけになった。やわらかい暗闇に包まれ、まるで胎内に戻ったみたいに眠り続ける。風化する時間。絡まる思考。吐きそうな夢。誰にも見つからない、誰にも認められない、けれど誰にも否定されない場所。現実は寒くて、うるさくて、どうしようもなくわたしを拒絶するけれど、ここではそんなことはない。ただ、わたしと、静寂と、沈んでいく意識だけ。


 ずっとここにいたいと思った。


 でも、布団の中の温もりは次第に息苦しさへと変わっていった。心地よかったはずの眠りが、どこか重く、鈍く、わたしの体を押し潰していく。暗闇が生まれる前の場所のように安全な「わたしのばしょ」だったはずなのに、それが突然、狭苦しい檻のように感じられた。


 もっと深く沈もうとしたのに、息が詰まり、胸が苦しくなった。脳の奥が熱を持ち、体の感覚が遠のいていく。水の底へ沈むみたいに、意識がゆっくりと溶けていく。


 気づいたら、冷たい床に倒れていた。


 いつからここにいたのかもわからない。布団の温もりはどこにもなく、代わりに硬くて冷たい床が肌に突き刺さるようだった。白い天井が目に入り、影が黒く伸びていた。痛みがあったのか、苦しんだのか、それすら曖昧だった。ただ、手に入らなかった金色の花だけが脳裏に浮かぶ。


 最後にもらう花は、きっと学校の机の上のやつだろう。誰もいなくなった教室で、ガラスで区切られた中で、生ぬるい水を吸っている黄色い花。一輪の黄色い花。


 窓から差し込む光を受けて、自分の作った影の上で、まるで小さな太陽みたいに揺れているだろう。あれは離別の花、あるいは祝福の花だろうか……。


 わたしがそれを見ることはできないけれど……。

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