Ⅳ.過去.

Ⅳ-1

五年前…


5月金曜 朝

渡邉家



「詩樹~、紗槻さつき~、睦樹むつき~。

朝ごは~ん」


母親の呼び掛けに対し、


「「は~い」」


三人の返事が元気良く聞こえた。

長男詩樹、長女紗槻、次男睦樹である。


詩樹は魔法社会で両親と弟、妹と五人暮らしだった。


三人は朝食を食べ始める。


「「いただきま~す」」


「お母さん、今日何かある?」


質問したのは詩樹だ。


「あら、よくわかったね。

今日お仕事の後早い目にお父さんと帰ってきて、

みんなで出掛けようと思ってたの」


「やった~。ねぇどこ行くの?」


今度は紗槻が聞く。


「それはお楽しみ。

今日は友達と遊ばないで帰ってきてね」


「「は~い」」




30分後…

「「行って来ま~す!」」


「いってらっしゃい。気をつけてね~。

早く帰ってくるのよ~」



――――――――――


学校


算数の授業


「この問題分かる人!」


「はい!」


先生の問いに詩樹はいち早く手を挙げる。


「じゃあ詩樹君」


「はい、半径×半径×3.14です」


「よくできました。別にまだ3.14は3で結構です。

じゃあこの問題は?」


先生は黒板に書き足した。


「え、…それは習わない範囲ですよ?」


「え?ああ、ごめんごめん。

これは古い教科書だった。じゃ――」

「はい」


別の生徒…田仲将生が手を挙げる。


「え、将生君、なんですか?」


「その問題の答えは底辺と上辺を足して高さを掛けて÷2です」


「おお、すごいな将生君。習わない範囲が分かるなんて」


「たまたま勉強してたんでわかっただけです」


「………」


体育の授業



五人がコースに一列に並んでいた。

50m走のようだ。



「将生、今日は僕が勝つ」


「ふっ、それ何回目だ?」


詩樹と将生がいつものやり取りをしていた。


「位置について、よ~いドン!」


ダダッ


先生の合図に合わせて一斉に走り出す。






(あともう少し。)


詩樹と将生は他の三人の前に出ていた。


すると、


ビュウゥ


隣で風の音がした。

横をみると、音は将生のほうからでていた。


(もしかして...。)


そして


パンッ


「一着は田仲将生君、二着は渡邉詩樹君」


「はぁ...、はぁ...。

せんせー、将生君魔法使ってましたー」


「魔法使ったら駄目って言われてませんから」


「ん~、確かに言ってなかったな...」


「え~」


「お前も魔法使ったらよかったのにな。

あ、お前はまだ使えないか。ははは」


「………」




放課後


教室


「詩樹~。今日遊ぼうぜ~」


同級生の一人が詩樹に話しかけてきた。


「ん?ごめん、今日家族で出掛けるみたいだし無理」


「そっか、じゃあ、またな~」


「バイバーイ」



校門前



「紗槻~、睦樹~、帰るぞ~」


「あ、お兄ちゃんお姉ちゃん待って」


一人遅れる睦樹。


「はは、む~くん置いてくよ~」


それを笑いながら迎える紗槻。


――――――――――




カチャッ

キィ


「「ただいま~」」


鍵を開けて扉を開けて三人は元気よく言った。


「…鍵が閉まってたしお父さんたちまだみたいだ。

ん~、三人で遊んで待つか!」


その詩樹の問いかけに、


「「うん!」」


二人は元気よく答える。





午後6時


「遅いね~。何してんのかな~」


退屈そうにする紗槻。



プルルルル


「電話だ。お父さんかな」


詩樹は電話に向かい、受話器を取った。。




「もしもし、はい、………ぇ...。

……う……嘘…じゃ…ないんですか...。

…………わかり…ました...」


震えながら受話器を置く詩樹。




「お兄ちゃん、どうしたの?」


睦樹が聞いた。





「………お父さん…と…お母さんが、

……事故に…巻き込まれて………な…亡くなった…って...」


――――――――――

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