Ⅲ.詩樹
Ⅲ-1
入学式とその後のホームルームが終わった正午過ぎ、一人の生徒が寮の屋上で寝転がり、雲の少ない空を仰いでいた。
「………はぁ...」
小さく溜息をもらす黒髪の少年…詩樹だ。
よく見ると何故か制服の一部に煤が付いて黒くなっていた。
何故彼が屋上にいるかと言うと、それは数十分前まで遡る。
――――――――――
教室を出た詩樹は、とりあえず静かな場所に行こうと思い、どこなら静かであるか考え、真っ先に思い付いたのが学校の屋上だった。
早速階段をいくつか上り、少しして屋上へ続く階段前までたどり着く。
しかし階段はロープ数本で簡易に封鎖され、手書きで"立ち入り禁止"と書かれた紙が付けてあった。
「………」
詩樹は少しの間それを見つめるが、気にせずロープをくぐり、階段を上ろうとした。
「あ!君、何してるんですか?」
すると後ろから呼び止める声がした
振り返ると膝まである黒い髪をたなびかせ、スーツを着た…少女?…にしかどう見ても見えない女性が詩樹の方へ歩いてきていた。
「立ち入り禁止って書いてありますよ?」
咎めるように橙色の瞳で詩樹を少し見上げる少女。
詩樹はこの声に聞き覚えはあったが誰かは分からず考えていた。
「見下ろしてないで何か反論は…あれ、見下ろしてって...」
少女はそこまで言いかけると目線を落とし、自分自身の体にむける。
そしてハッと何かに気づいたらしく、近くにあった空き教室に急ぎ足で入っていった。
どうしたのかと詩樹が思っていると、その教室から一瞬激しい光が漏れ出てくる。
少し間が空いて…
「ふぅ~...。すいません。
まだこの世界の魔法に馴染めてないんですよ」
そう言いながら教室からでてきたのは、先ほどの少女と同じ様なスーツを着て同じ様な長い黒髪だったが、長身の女性だった。
「………三神校長?」
「え、気づいてなかったんですか?
だったらそのまま立ち去ってもよかったんですね...」
三神は顎に右手を添え、少し考える仕草をする。
「そうですね……先程のことは他言しないでください」
ここで一旦言葉を区切り、満面の笑みで、
「もし、言いふらしたりしますと…ね?」
…と続けた。
この時、一瞬周囲の温度が急激に下がったように思えた。
「………わかり…ました」
「そう、わかったらいいです。
…あ、屋上には本当に行かない方がいいですよ。
ある人が…えと…罠だらけにしたので安全の保証はできませんから。ではでは」
そう言って三神はすたすたとはじめに来た方向へ歩いていった。
「………」
詩樹は暫く何も出来ずに佇んでいた。
そして三神校長には逆らわない方がいい、と直感で思いその場から立ち去った。
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