第9話 三つ目の試練

 二つ目の試練の後、タケルはずっと『熱く燃える心』を手に、犠牲になったスナのことを考えていた。「自分がもっとしっかりしていれば、スナを犠牲にしなくてもよかったのではないか」と自問し続けていた。

 イトーヌは、スナに叩かれた頬をさすりながら、ひょこひょこ歩いている。何もしゃべらないところをみると、何か考え事をしているようだ。

 フクロウは、そんなタケルやイトーヌを見守るようにずっと空を飛んでいた。

 ついにタケルは、低い声で静寂を破った。


「僕たちは……進むんだ。父さんのために」


 イトーヌはゆっくりと頷き、珍しく真剣な表情をしていた。


「うん……お父さんのために。そして……スナちゃんのためにもがんばるんぬ」


 フクロウはタケルの肩に降りてきた。


「前途多難であろう。試練は、お前たちの決意だけでなく、存在そのものの本質を試すのだ」


 タケルは、『熱く燃える心』を慎重にリュックサックにしまった。スナの犠牲が、この次の試練への道を開いたのだと彼は知っていた。スナのためにもくじける訳にはいかない。

 オアシスの神殿を後に、三人は砂漠の厳しい現実に再び足を踏み入れていた。太陽は容赦なく照りつけ、砂はどこまでも広がっている。

 砂丘を苦労して歩いていると、水平線に新たな景色が現れ始めた。ギザギザとした暗い山々が、平坦な砂漠の地面からそびえ立ち、その頂は渦巻く霧に覆われている。


「あそこに、次の試練が待っているのかな」


 タケルは、不吉な山々を指さして言った。

 イトーヌは、暑さにもかかわらず身震いした。


「なんだか……怖いんぬ」


 タケルの肩に止まっているフクロウは、落ち着いた口調で言った。


「そうだ。あの山に三つ目の試練が待ち受けている。用心せよ」


 不安と決意が入り混じる中、タケル、イトーヌ、そしてフクロウは、暗く不吉な山々へと足を踏み出した。スナの犠牲が、彼らの決意を燃え上がらせていた。

 険しい山道をなんとか登っていくタケル、イトーヌ、フクロウ。空気は次第に薄くなり、足元はところどころ凍てついて滑りやすい。それでもタケルたちは、次の目的地を求め、前へと進んでいた。

 やがて、タケルたちの前方に、奇妙な光景が広がった。切り立った崖と崖の間に、古びたサーカスの大きなテントが現れたのだ。色褪せた赤と白のストライプ模様、幻想的なイルミネーションの名残のような光が、チラチラと揺れている。


「え? こんなところにサーカスが……?」


 イトーヌは、目を丸くしてテントを見上げた。フクロウも、高い場所から観察するようにテントを見下ろしている。


「父さんと、一度だけサーカスを見に行ったことがあるんだ」


 タケルは、懐かしそうにテントを見つめた。


「すごくアクロバティックな出し物がいっぱいで、危険な猛獣も従えて、目の前で色んな芸をする……楽しかったな」


 その時、テントの入口の重そうな幕がゆっくりと開いた。中から姿を現したのは、純白の毛並みに、深く青い目をした雄大なホワイトライオンだった。その首には、金色に輝く小さな鈴が付けられている。


「きみは……ライ!」


 タケルは、思わず声を上げた。それは、小学三年生の頃、父親とサーカスに行った帰りに買ってもらった、白いライオンのぬいぐるみとよく似ていたからだ。もちろん、目の前にいるライオンは、ぬいぐるみよりもずっと大きく、迫力に満ちている。

 ホワイトライオンは、タケルのことなど知らない様子で、威厳のある声で言った。


「ようこそ、試練の地へ。我はライ。真の勇気を持つ者を探している」


 その言葉が終わると同時に、テントの中の様子が明らかになった。そこには、サーカスさながらの危険な仕掛けがいくつも用意されていたのだ。揺れる綱渡り、火の輪くぐり、回転する刃物……どれも克服するには、相当な勇気と決意が必要そうだ。


「これらの試練を乗り越えた先に、『果敢な勇気の心』がある」


 ライは、静かに言った。


「お前たちは、真の勇気を示すことができるかな?」


 イトーヌは、危険な仕掛けを見て怖気づいた様子で、タケルの背後に隠れようとした。フクロウは、冷静にそれぞれの仕掛けを観察している。


(あれは僕の知ってるライじゃないんだろうか?)


 タケルは疑問に思いながらも、手のひらを握りしめ、目の前にいるライをまっすぐに見つめた。


「やってみせる。父さんを助けるためなら、どんな試練だって乗り越えてみせる!」


 昔の父親との暖かい思い出と共に、タケルの胸には熱い決意が湧き上がっていた。二つ目の試練で得た『熱く燃える心』が、今、タケルの背中を強く押している。三人は、勇気を試すサーカスの試練に、足を踏み入れたのだった。


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