第5話 第一異世界人遭遇
異世界で過ごす日々はとても充実していた。
朝は窓からさす木漏れ日の中で目覚め、夜は湖面いっぱいに漂うホタルや夜空を埋め尽くす星を眺めながら酒を飲む。
休日はそれこそほぼ一日中湖畔で過ごし、釣りをしたり素っ裸で泳いだりと異世界ライフを満喫していた。
会社では、毎日機嫌が良く仕事が終われば飛ぶように帰っていく姿から「彼女ができたんじゃないか」と噂が広がり、非常勤専務である叔母さんが出勤してくるというアクシデントもあった。
ちなみに叔母さんは年に数えるぐらいしか出勤しないが、売上実績は会社のトップ。企業や金持ち相手の大型案件を年に数回確実に決めてくる。
そんな日々も半年が過ぎ、アーガスに通い始めた頃は三十五度超えの猛暑日が続いていたが、気づけばクリスマスソングがあちこちで聞こえてくる季節になっていた。
湖があるこの地域は季節の変化は無く、この半年間二十五度前後と安定していて冷暖房も必要がない。光熱費も前に住んでいたところの半分で済んでいることも俺の満足度に寄与している。
その日は休日で、昼食にビールと一人焼肉を楽しんでいたところだった。これを食べ終えたら風呂代わりに湖で泳ごうかと思っていたところへ
「あっ…」
突然、背後で声がする。
びっくりして振り返ると筋骨隆々で剣をぶら下げた、いかにも冒険者と言わんばかりの人物が立っていた。
――武器を持った、ゴツい体格の、全く知らない人と、森の中で二人きり――
体験してみてよくわかった。ものすごーく怖い、めっちゃ怖い。
『半径七メーターの悪意よけの結界』を思い出し自分の位置を確認する。
問題なく範囲の中にいるようだ。呑気に泳いでいなくてよかった……
「こんな場所があるなんて聞いてない…」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、辺りを見渡している。
――よかった!言葉がわかる。
「えっと…あなたは?」
意を決して話しかけてみる。
「俺はザイードに在籍中のCランクパーティ堅守速攻のハーミット。あなたはこんなところでなにをしている」
サッカーの戦術みたいなパーティ名の男は剣に手をかけこちらを警戒するが、俺が手に持っているのが箸で掴んだ肉だと気づくと一気に警戒を緩めた。
「食事中だったか。邪魔して申し訳ない。あなたは一人か?」
「ええ、一人です。半年ほど前から住んでいましたが、自分以外の人には初めて会いました。どうやってここに?」
とりあえずは安全と判断したのだろう。
ハーミットは先程よりも穏やかな表情で話し始める。
「精霊の森の妖精が最近目に見えて増えているから、その調査をギルドから依頼された。調査の最中に嗅いだことがない良い匂いがしてきて、それを辿ったらここに出てしまった。危害を加えるつもりはない」
数歩前に出て会話をしてきた。
―うん、あそこは範囲だね。害するつもりはないのは本当みたいだね。
フェリスの魔法の凄さは十分見てるから結界の反応からも問題ないんだろう。
―半年通って初めての異世界人だ。コミュニケーション取っておいたほうがいいね。
頭の中でこの後の展開をいろいろ想定していたら
「ぐぅぅぅぅ〜〜!」
今まで聞いたことがないような見事な腹の虫がなった。
恥ずかしそうにしているハーミットに
「焼き肉食べます?」
こんな美味いもの食べたことがないと感激するハーミットにおかわりを勧めまくり、冒険者や魔法について質問攻めにする俺。
途中からタメ口で会話するほど仲良くなった。
日が暮れかかる頃、再訪問を約束しハーミットは街に帰っていった。
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