第3話 そうだ!家を建てよう
翌日、出社してすぐに「昨日の物件を購入することにした」と社長に報告すると少々驚かれたが納得してくれた。土地建物込みで二百五十円。コンビニで高級アイスを買って渡して終了。前払いだ。マリの記憶を見て食べてみたかったらしい。
さて、土地を購入するのはいいが先立つものを用意する必要が出てきた。
あの家では三十年は持たない。建て直すしかなさそうだが―――
業者の見積もりが必要だが、あのくらいの建物だと取り壊しに百五十万円てとこか。
あとは内部のゴミの処分や整地と名義変更が必要だな。あれだけ古いと水道管の引き直しも必要なはず。売却前の測量は向こう持ちとして…
―――あいつ金を持ってるのか?
まあいい。
余裕を見るなら二百五十万円ぐらいは考えておいたほうが良さそうだな。
それに建物はどうする?
まいったな金が足らんぞ。三ヶ月前に車を購入したばかりだし。
そんな数々の問題も一ヶ月後の引き渡し日までには、次々解決していくことになる。
「家は持っていくことにしたわ」
マリさんはアーガスの世界で今の家に住みたいと希望した。
――いきなり転移に巻き込まれ、飛ばされた日本で言葉もわからず困っていたマリさんを養子として引き取り、実の娘のように育ててくれた小田夫妻の思い出がたっぷり詰まっている大切な家――
増築部分もマリさんのために作ったらしい。
たしかに、あの家は作りは古いが大切に維持されていた。
まあ俺にしてみれば、解体費用や不用品の処分代がなくなったのは助かる。
ただし、いきなり家が消えると騒ぎになるので目隠しは必要。
足場とブルーシートで二十万円、ついでに整地に十万円。
「餅は餅屋」
家のことは親父に相談することにした。
親父は長男だったが「建てる方がやりたい」と、都内のハウスメーカーに就職した。
昔の仕事仲間が独立して「トレーラーハウスの販売をしているから聞いてみろ」と連絡先を教えてもらった。
――トレーラーハウスか、思いつかなかった。
プレハブも考慮してたが値段次第では――うん、アリだな。
聞いた場所まで高速で一時間。
それほど遠くはないので、連絡して直接訪ねてみることにした。
『動く家』に興味を持ったフェリスも一緒だ。
大きいもの、小さいもの、サイズや間取りに装備の違いで大きく金額は違うが、概ね六百万円から一千万円で完全に予算オーバー。
新品は当然無理で中古も現在あるものは予算オーバー。
ダメ元で簡易的に使えればいいから安いものはないかと訪ねたら、リフォームする予定で買ったが状態があまりに悪く放置されている物があり、それでよければ安く譲るとの事だったので実物を見せてもらう。
ぱっと見は悪くない。
元は大型の高級仕様のトレーラーハウスで、ショップや飲食店舗として何回も改装され全国各地を移動をしていくうちに、雨漏りや軋みなどあちこちに不都合が出て売りに出されたものらしい。
住宅用にするならかなりの修復が必要で「新品のほうが安いよ」と忠告を受けるが
「修理は無理。でも巻き戻しは可能」
フェリスの言葉で即決。
送料二十万、本体八十万の総額約百万円で購入。
本業と並行作業で忙しい日々を送っていると気がつけば引渡日。
測量や必要な手続きを済ませ、件の家と土地は無事俺のものになった。
早速業者を手配し、足場とブルーシートで家を囲む。
三日ほどこのままにして三日後一気に移転してもらおう。
ちなみに
フェリスはマリさんの代わりに偽装工作中。
取引を終えてすぐは不自然すぎるので、しばらくしたら自然死を偽装するらしい。
現在は老人ホームへ入居中。
ヒマじゃないか?と聞いてみたら
「テレビに、風呂、食事、寝る。悪くないでござる」
時代劇にでもハマったか。
三日後、フェリスは夜中にこっそり抜け出してきて家を丸ごと移転した。
足場とブルーシートを取り払い、上下水道に都市ガスの配管を予定地まで伸ばし、敷地全部を整理して、設置場所のコンクリート舗装を済ませる。
一通り終わると、トレーラーハウスのサイズにあわせて足場とブルーシートで囲い、運ばれてきたトレーラーハウスを設置する。
改めて見るとボロボロだな。
運んでくるときに「落下物がないか気を使った」と牽引業者さんが苦笑いしていた。
―これホントにもとに戻るのか?大丈夫だろうな?フェリス。
途中、何度か社長が見学に来ようとしていた。
何かと理由をつけて断ったが違和感を持たれているようだ。
業者が入った様子がないのに家がなくなれば、そりゃ疑われるわな。
トレーラーハウスが設置されて一週間目の深夜。
フェリスの力で一気に終わらせることにする。
「最初のでいいの?」
「どういうこと?」
身代わりを置いて施設を抜け出してきたフェリスが訪ねる。
「この子、何回も変わってるからどこかに決めて」
――そういえば、そんな事を言っていたな。
このトレーラーハウスの販売用カタログを見せて、この状態でお願いする。
うなずいて両手を広げると、植物観察の定点カメラの早回し映像のように、色も形も目まぐるしく変化していく。
「すごいわーフェリスはスゴイわーさすが神だわーすごいわー」
俺は頭の悪い人のようなつぶやきを連呼していた。
作業は三十分ほどで終了。
最初に見たときとはぜんぜん違う赤茶の壁に白の縁取りのおしゃれな家が現れた。
そしてこの日の深夜、地球の「小田マリ」はひっそりと亡くなった。
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